183.目撃情報と急展開
「じゃあ、この村に立ち寄った後にその二人は西の方に向かったと?」
「どうもそうらしいですよ」
山を越えて村にたどり着いた一行は、日が暮れてしまったこともあってその村に泊めてもらうことにした。
その中で今まで集めていた情報を整理してみると、まずリュドとライラはこの村に立ち寄り、食料やら薬を買い込んでいたらしい。
しかも話によれば、彼女たちと一緒に黒ずくめの集団……バーサークグラップルの連中も後から合流してこの村で買い物をして、西へと向かったのだという。
キャラバンの人間たちの情報ではリュドとライラの二人だけだったという話なのだが、どこかで何かをした後に合流したのだろうか?
「俺たちの部下の話では、アクティルを襲ったのは勇者たちと強化人間だけだったらしい」
「全員目がうつろだったとでも?」
「ああ。まぁ、俺たちも突然の敵襲で混乱していたから全部が全部そうだったかといわれると全く自信がないんだが」
ジャックスが悔しそうな表情を押し殺しながら、精いっぱい冷静に部下からの情報も織り交ぜて情報の足しにする。
結局、この村ではそのリュドとライラ以外の情報は手に入らなかったのだが、西へと向かった目撃情報があるのでリュシュターたちに連絡を入れ、西の方を重点的に探すことに決める。
そしてセルフォンにも目撃情報か何かないかを聞いてみると、こんな情報がもたらされた。
『んん、そういえば襲撃の時にこのアクティルの外に避難していたって住民が、北の方に向かって飛んでいくワイバーンを目撃したらしいぞ』
「ワイバーン?
『そうだ。そのワイバーンに人間が乗っていたのが見えたらしいが、戦闘に参加するでもなく、アクティルのそばを通り抜けて北に向かっただけだったらしい。だから野生のワイバーンではないはずだから、もしかしたらそっちの北の村でも目撃されているかもしれないな』
「わかりました、ちょっと聞いてみますね」
ルディアがその話を聞き、ワイバーンの目撃情報がないかどうかを尋ねまわってみたのだが、どうやらこの村の住人たちは目撃していないらしい。
もしかしたら今回の事件とは全く関係ないものだったのかもしれないし、ロサヴェンやティラストが言うには、自分たちがここまでやってくるために使った馬のようにワイバーンを移動用に使う金持ちもたまにいるらしい。
おおかた、ワイバーンをアクティルに着陸させようとしたものの襲撃を受けてとんでもないことになっていたのを見て、急遽着陸場所を北に取ったのだろう。
そう結論付けたルディアたちだったが、その翌朝に事態は急展開を見せる。
「なあ、ルディアってどこに行ったか知りませんか?」
「え? まだ寝てるんじゃないの?」
「いやーそれがさ、部屋にいねーんですよ。荷物そのままでどっか村の中を散歩でもしてるんですかね?」
翌朝、起きてみるとルディアの姿がなかったのだ。
朝食をとったらすぐに出発しようと考えていた一行は、まずルディアの捜索に乗り出すことになったのだが、村の中をいくら探しても見つからない。
「え、もしかして西に向かって先に一人で行っちゃったのか……?」
「その可能性は考えられなくもないですが、私とロサヴェンが村の出入り口を警備している夜勤の方に聞いてみても、誰もこの村から出た人はいなかったそうですよ」
この村の出入り口は一つしかないので、誰かが出入りすればすぐにわかる。
しかも周囲を岩壁に囲まれて自然の防壁が出来上がっているので、他に出入りができる場所はない。
仕方がないのでルディアを魔術通信で呼び出そうとしてみるが、まるで反応がない。
だとしたら一体彼女はどこに行ってしまったのだろうか?
「まずいな、村の中に姿が見当たらない上に魔術通信にも呼び出しがないとなると、何かしらの事件に巻き込まれた可能性が高い」
「荷物そのまま残して消えたってことは、まさか誘拐?」
「その可能性はあると思うけど……とにかく村を出て探しに行ってみよう」
村の中にいないとなれば、残るは村の外しか居場所が考えられないので、残りのメンバーはルディアを探しに出発しようと村の広場までやってきた。
だが、その時ルギーレの懐に入っている魔晶石が光りだした。
まさかルディアか!? と思いつつ魔術通信に応答してみたのだが、その相手は全く予想外の声の主だった。
「あ、ルディアか!?」
『ブー、残念ながら違うよ』
「ん? 誰だお前は?」
『やだなぁ……私の声を忘れたのかしら? もともとの仲間だったのにさ』
その声の主が誰なのかをルギーレが記憶から探り、ある一人の女にたどり着いた。
「……まさかお前、ベティーナかぁ!?」
『やっと思い出してくれたのね。それで早速なんだけど、取引と行こうじゃない』
「取引だぁ?」
『そう。あなたの仲間のルディアちゃんはこっちで預かっているから、本物のレイグラードを持ってきてよ。交換と行きましょう』




