182.本物と偽物
その結果、このアクティルの裏にある山を越えてずっと北に行ったところにあるのが隣国ラーフィティアなのだが、その途中の街道でリュドとライラの緑髪の女コンビを見たという情報が商人のキャラバンから近くの村に寄せられた。
ならばまずはその村に向かおうということで、現在は馬に乗って山を迂回するルートでひたすら北に向かって街道を進んでいる一行。
だが、ルギーレたちは同行することになったヴィンテスとジャックスから、盗まれたレイグラードについて衝撃の事実を聞いていた。
「偽物?」
「そうなんだ。国民は知らないんだが、俺たちの知っているあのレイグラードは偽物なのさ」
ヴィンテスがそう言うと、隣で馬を進ませているジャックスもうなずく。
「このイディリークの国民にとっては、伝説の冒険家であるルヴィバー・クーレイリッヒはそれこそ神のような存在だからな。その人がいなければこのイディリークもなかったのだから」
話によれば、セルフォンをはじめとするこの世界の看視者として活動しているドラゴンたちよりもそのルヴィバーを神格視している人間も多く、うかつにルヴィバーの悪口を言おうものなら袋叩きにされてしまうらしい。
実際、そういった事件も年に何回か起きてしまっているらしく、そこだけは気を付けてほしいと出発前にリュシュター直々に忠告されている。
そんな事件も起こっている中で、その人間と一緒に戦った伝説の剣が城の地下に国宝として大切に保管されている。
更に年に何回かある様々な行事の中では、城の出入り口から直結している大広間に飾られているルヴィバーの大きな石像の右手にそのレイグラードを持たせ、人々の健康と幸せを願うためのシンボルとして展示している。
「そのレイグラードが盗まれたと知ったら、国民は嘆き悲しむ。……それがそもそも偽物だとも知らないのにな」
「ちょ、ちょっと待ってください。何でそれがそもそも偽物だってわかったんですか?」
ティラストがヴィンテスとジャックスに聞いてみれば、簡単なことだとヴィンテスが言う。
「レイグラードを使うルヴィバーの周囲に紫色のオーラが立ち上っていたとの目撃証言が、歴史書に書かれている。そしてレイグラードを持ったまま行方が知れなくなってしまったルヴィバーは、そのまま人知れずどこかで息絶えた。レイグラードもそのまま行方不明。……だから、歴史書に残されているイラストからレイグラードをできうる限り復元したんだ」
「それが、その盗まれたレイグラードってことなんですね」
納得するティラスト。
確かに本物がそもそも行方不明なのであれば、偽物のレイグラードを作ってでも建国のシンボルとした方がいいだろう。
ただでさえルヴィバーそのものもレイグラードの闇に飲み込まれてしまい、そのまま跡形もなく消えてしまったのだから。
(しかし、この旅路にセルフォン様が同行していないのが惜しいところですよ)
彼がいればもっとレイグラードやルヴィバーについて何があったかを聞くことができたかもしれないが、人間の姿では医者として活動している彼は、今回の事件で負傷した人々の治療にあたってもらうことになったため一緒には来られなかったのである。
その代わり、定期連絡をほかの国に入れた後にルディアがこっそりとこう言われた。
「某に任せておけ。何か新しいことがわかったら報告する」
「わかりました」
もしかしたらこのイディリークのどこかに、あの襲撃連中の残党がいるかもしれない。
それかもしくは、帝都の中でその連中にかかわる情報が見つかるかもしれない。
かもしれないという仮定の話しかないのだが、考え方を変えてみれば両方の場所からこうしてアプローチできるというのは情報収集がはかどる確率がアップする。
もちろん、それはイディリークの二人には伏せてほかのメンバーにも伝えられ、情報が待ち遠しいと思うようになった。
「それで、その見かけたのはその二人だったんですか?」
「ああ、その女二人だけだったらしい。緑髪の女二人というのはなかなかに目立つ存在だからかもしれないが、キャラバンの一行は印象に残っていたらしいぞ」
自分も同じく緑色の髪の毛を持っているジャックスがそういうが、それよりもルディアが気になるのはマリユスやベティーナといった勇者パーティーの上の二人である。
それについては、ルヴィバーの銅像が設置されている大広間の出入り口にもなっている正面玄関からの陽動作戦で目撃されて以来、行方知れずらしい。
「兵士部隊と騎士団の人間たちの多くから目撃情報があるのだが、その二人はかなり手ごわくてあっという間に制圧されてしまったそうだ」
「……でしょうね。俺はもともと仲間だったからわかりますが、あの二人の強さは別格ですよ」
任務を失敗してバーサークグラップル側についたとはいえ、そのバーサークグラップルたちが上だっただけで実際には世界中で名前を残しているのがルギーレが所属していた勇者パーティーなのだから、イディリーク側としては相手が悪かったとしか言えないのだ……。




