180.これからのこと
「これ、こっちで預からせてもらいますよ」
「……というか、没収ってことですよね?」
「そうなりますね。このデザインといい、奇妙な宝玉がはまっていることといい、調べてみる価値は十分にありそうですし」
皇帝のリュシュターにそう言われてレイグラードを没収されてしまったルギーレをはじめ、城の中で事情聴取を受けることになったメンバー。
こうなったらこのイディリーク帝国の人間たちにもとことん協力してもらうべく、セルフォンが伝説のドラゴンだということ以外は今までの経緯をすべて話すことにした。
「……じゃあ、やっぱりその騎士団長を襲ったって金髪の女はベルタで間違いないですね」
「ええ。あなたが勇者パーティーにいたのも私は覚えています。ですがまさか、あの勇者パーティーの方々がこんなことをするとは……」
リュシュターは、以前自分に謁見に来た時にまだ勇者パーティーのメンバーだったルギーレのことも覚えていてくれた。
ルギーレのことも最初は今回の襲撃に参加していたのかと思われていたのだが、ルギーレ自身の証言、それから南の検問所からの事実確認、そして各国のトップたちからの証言もあってすぐにそれはないことをわかってもらえた。
だが、問題はここからである。
今回の帝都アクティルの被害も今まで被害を受けた他国と同じように、完膚なきまでに叩きのめされてしまっているのが特徴なのだが、今までと違うのは強化した人間を兵士として扱っていたことと、今までにない新たな兵器を使った戦法を取ってきたことである。
「どうやら、敵もなかなか新しい手を打ってきているみたいですね」
「ええ。ですがその強化兵士でしたか……それは以前ファルス帝国で研究がされていたと?」
「そうなんです。あ、でもファルス帝国がやっていたんじゃなくて、そのバーサークグラップルの連中がファルスの中でこっそりやってたんですよ」
今回襲撃に使われた強化兵士の原型は、人間としての自我を失わせて痛みなどの感覚をなくし、攻撃のみをさせるまさに最強の存在ともいえる強化人間だ。
あのファルスで破壊した工場から手に入れた資料によれば、強化人間は特殊な薬品を生きている人間の中に注入して、廃人状態にしてから攻撃目標を伝えて洗脳させることによって攻撃兵器として使えるようになるらしいのだ。
「それが本当だとすれば、確かに俺たちが戦った兵士たちがひるまずにどんどん向かってきたのもうなずけます」
「ラルソン副団長もその兵士たちのすごさを実感されましたか?」
「はい、俺がロングソードを使って戦いましたが、刺されようが斬られようが臆していませんでした」
というよりも、刺されたのも斬られたのもわかっていないような雰囲気だったらしく、それはまるで人間ではなくて意思のない幽霊か何かを相手にしている感覚だった、というのが騎士団で副団長を務めているラルソンの見解だった。
だが、それ以上に脅威を感じていたのは皇帝のそば近く仕えている近衛騎士団長のローレンという男だった。
「陛下、私からも一つよろしいでしょうか?」
「ロクエル団長……いかがなさいました?」
「レイグラードが奪われてしまったとなればこれは国民にとって不安を与えてしまうかと思われます。一刻も早く、本物のレイグラードを奴らの手から取り戻すべきだと思いますが」
「そうですね。それはもちろんですが、まずは足取りをつかめないことにはどうにもなりません」
そう、レイグラードを奪われてしまったことこそがこの国にとって最大の脅威なのだ。
この国の国宝であり、かつてそれを振るったルヴィバーの象徴として厳重に保管していたはずなのに、それをいとも簡単にこうして地下から盗み出されてしまった。
だったらそれまでの間、レイグラードが盗まれたというのがデマだったと見せかけるために、ルギーレの持っているレイグラードを地下に保管しておこうというのがイディリーク帝国の目論見である。
しかし、それはルギーレとセルフォンが反対する。
「あ、あのぉ……それはちょっと良くないと思うんですよ」
「なぜだ?」
「レイグラードなんですけど……どうも一定の距離を離れると俺のもとに戻ってきちゃうみたいなんですよ」
「え?」
バーレンの遺跡で、勝手にあのバーサークグラップルのサブリーダーの手から離れて自分のもとにレイグラードが戻ってきたおかげで、その後のピンチを切り抜けることができたのがルギーレにとって記憶に新しい。
しかし、その後にシュヴィリスやセルフォンから聞いたレイグラードの闇の話。
それを考えると、もしこのイディリーク帝国にレイグラードを預けてしまったとしても勝手に動いて自分の元に戻ってきてしまう可能性が大であった。
その話を聞いたイディリーク側の人間たちの中で、宰相のモールティと呼ばれている男がこんな提案をしだした。
「でしたら、ルギーレさんにはその問題が解決するまでこの国にいてもらいましょう」




