175.ヒント
人間から発せられているものではない。
セルフォンからその重要なヒントをもらった三人は、復興作業を手伝いつつその妨害魔力の発生源を調べてみる。
魔術通信もこちらからでは使えない以上、セルフォンにはその旨をルギーレとティラストの二人に言ってくれるように頼んでおいた。
そして二人と合流したらその時は一緒に探す予定なのだが、いかんせんこの広い帝都ではどこにそれがあるのか見当もつかない。
そして、魔術が一切使えないという事実がルディアに重くのしかかる。
「私……魔術がなかったらただの人よね」
「いきなりどうした?」
ボソッとそんなことを呟いたルディアに反応したジェディスが、何事かと思いつつ声をかける。
そこには彼女なりの悩みがあった。
「この世界では魔力があるのが当たり前で、魔術があるのが当たり前で、その魔術を使って人々が発展してきたのは知っているでしょ?」
「そりゃそうだ。この世界に生きている俺たち人間だけじゃなくて、すべての生物にとって魔力は絶対に必要なものだし、魔術がなかったらここまで人間社会が発展することもなかったんだしな」
「そうよね。そして、私は魔術師なのよ」
でも、その魔術師が魔術を使えなくなったら何もなくなってしまう。自分の存在価値が否定されてしまう。
自分でもなんだか情緒不安定になっている気がするのだが、こうして魔術が使えない現実を目の当たりにした今では、その気持ちが大きなストレスになっている。
その彼女の気持ちを聞いていたジェディスが、それは違うと言い出したことで彼女の気持ちが晴れるきっかけになった。
「君は俺たちにヒントをくれただろ」
「え?」
「今の君は確かに魔術が使えない魔術師かもしれないけど、魔術師だからこその視点で物事を考えられるだろ。セルフォンって人からもっと大きなヒントをもらったとはいえ、最初にこの魔術が使えないという状況について切り込んだのは君だからな。魔術を使えないといっても、魔術師としての知識やものの見方などは頭に入っているわけだから、君はそういう部分で役に立っているんだ」
「ああ……なるほど……」
そう考えてみれば、魔術を使うだけが自分の存在価値ではない。
その言葉に元気を取り戻したルディアは、復興業を手伝いつつ再び聞き込みを始める。
すると、襲撃当日の敵の動きについて情報が入った。
「裏の山の上からですか?」
「そうなんだ。逃げる途中で俺たち見てたんだけど、あの変な兵隊たちが裏にある山の方からどんどん来てたんだよ。だから兵隊たちの親玉が山の方にいるんじゃねえかって思って、騎士団にも報告したんだよ」
変な兵隊たちというのは、
ニルスたちが開発していた強化兵士のことだろう。この情報提供者である男をはじめとした数人のグループは、その強化兵士が山の上からぞろぞろと降りてくるのを目撃していたらしい。
ここでもその重要なヒントをもらった三人は、アクティルのすぐ後ろにある山へと向かってみることにした。
すると、そこで多数の足跡を発見したのである。
「ここら辺の足跡、まだ新しいな……。やはりこっちから来ていたって話は本当みたいだな」
「じゃあ、この足跡を逆方向にたどっていけば妨害魔力のヒントも見つかるかもしれないってことですか?」
「お前の言う通りかもしれない。まぁ、確証は持てないが行ってみる価値はあるだろうな」
ロサヴェンの先導で山道を登っていけば、今度は身体にピリピリとしたしびれるような感触が伝わってくる。
先ほどの情報提供者である男たちが騎士団に報告しているとはいえ、復興作業に大忙しでなかなかこっちまで捜索の手が回らないので、どうやら自分たちが一番乗りらしい。
「何なの、この嫌なまとわりつくような……変な感じは!」
「おそらくこれが妨害魔力なんだろうな。何かこの辺りにそれを発しているものがあるのかもしれない」
ロサヴェンがそう言いつつ、足跡が無数にある周辺を詳しく調べ始めた。
同じくルディアとジェディスも調べ始めると、地面を掘り返したような跡を見つけたのがジェディスだった。
「あれ? 何だこりゃ? おおい、ちょっと来てくれ!!」
「え?」
その掘り返した跡がある場所を、今度は自分の手で掘ってみるジェディスが見つけたものは、灰色の四角い金属製の箱だった。
そしてその箱の中央にはいかにもという赤くて丸いボタンがついており、それを試しに押してみる。
すると……。
「あれ? しびれが消えたわ!?」
「本当だ! えっ……ということはまさか……!!」
期待を込めて、試しに右手の中にエネルギーボールを生み出す準備をするルディアは、戻ってきた魔術の感触に気分が高揚するのを感じずにはいられなかった。




