16.集まる傭兵たち
「その話、私たちにも聞かせてもらえないだろうか」
「ん?」
声のするほうにルギーレが振り向くと、そこには黄緑色の髪を長く伸ばした冒険者風の男が一人。格好からすると魔術師だろう。
もう一人は赤い髪の毛の目つきが鋭い男であり、こちらも冒険者の格好をしている。武器はショートソードのようだ。
「ロックスパイダーの巣を壊滅させたっていう冒険者がここにいるって話を聞いて、俺たちもぜひ話を聞かせてもらいたいと思ってな」
「おー、全然いーよ!! ほらそっちにもっと詰めて詰めて!」
赤髪の男が話に参加したいと言い出したので、ルギーレは快く彼ら二人も話に加える。
そのまましばらく話は続き、いい時間になってきたので今日はもう身体を休めることに決めた。
「今日はどうもありがとう。おかげで私たちも有意義な時間を過ごせた」
「そりゃーよかったぜ」
黄緑髪の男がそう言うが、赤髪の男が唐突にこんなことを二人に言い出した。
「もしよければ、俺たちと一緒に依頼を受けないか?」
「え、依頼……?」
「ああそうだ。俺たちが受けようとしている依頼なんだが、人手が足りずに受けられそうになくてな。だからもしよければ一緒にどうかと思って」
「……それってどんな依頼なの……?」
その依頼内容次第では断ることも考えているルディアだが、男たちは絶妙に微妙な依頼を提案してきた。
「帝都での依頼なんだよ。最近は帝都の中に盗賊団が出没するって話があってな」
「盗賊団? それだったら騎士団に任せればいいんじゃないの?」
「それはもっともだ。だけど盗賊団のほうもなかなか素早いみたいでな。騎士団が動けばすぐにその情報が入るらしい。知り合いの騎士団員から聞いた話によると、どうやら騎士団の内部に内通者がいるらしいんだ」
だからここは、冒険者たちにその盗賊団を追い込む手伝いをしてもらいたいのだと言い出す黄緑髪の男。
それを聞き、ルギーレとルディアは顔を見合わせる。
「どうする、ルディア?」
「うーん……ちょっと考えさせてもらえないかしら? あなたたちもここに今日泊まるの?」
「ああ、私たちも泊まるよ」
「そうなの。だったら明日の朝に返事させてもらってもいいかしら? 別の依頼も受けるかどうか迷っててね」
「そうか。じゃあ明日の朝にこの宿屋の出入り口で会おう」
「わかったわ。それじゃおやすみなさい」
「ちょ、おい……ルディア!」
騎士団の関係者がいると思わしき二人の冒険者と別れて、自分たちが泊まる部屋へと入った二人は、向かい合って依頼を受けるかどうかを話し合い始める。
「おい、考えるってなんだよ!? 別に受けてもいいじゃねえか!」
「依頼の下準備をこまめにするのは感心するけど、別のところにも頭を回したほうがいいわよ、ルギーレ。今回の依頼を受けるのはやめておきましょう」
「なんでだよ?」
「騎士団の知り合いがいるってことは、あなたのその剣の出どころもバレる可能性が高いわ。それにアーエリヴァに行くためには絶対に帝都を通らなければならないから、ここは騒ぎを大きくしないうちにさっさとアーエリヴァに出ちゃったほうがいいわよ」
国外に出てしまいさえすれば、そこから先はアーエリヴァの管轄になるから騎士団の関係者もうかつに手を出せないはずだ。
さらに下手に皇帝に話が通るなんてことになったり、その剣の能力を帝都の街中で見せたりしてしまったら、間違いなく自分たちはいろいろな意味で有名になってしまうのがルディアには目に見えていた。
だからここは依頼を受けず、さっさと帝都からアーエリヴァ行きの列車に乗って自分たちの次の目的地に向かいましょう、とルディアは決定してしまった。
だがその翌日早朝、その二人に返事をしないで勝手に出ていくとも決めたルディアとルギーレの目の前に、なぜかその二人の姿がもうあったのだ。
しかも、今度はその二人だけではなくて大勢の騎士団員たちが彼らの後ろに控えていた。
「え……?」
「ちょ、ちょっとなんなのこれ?」
いったい何がどうなっているのかさっぱりわからない二人に対し、黄緑髪の男が口を開いた。
「昨日の依頼を断らなければここまで手荒にすることもなかったのだが、やむをえまい。私たちと一緒に城まで来てもらう」
「えっ、城?」
城という単語が出てきて動揺するルギーレに、黄緑髪の男はさらに彼が動揺するセリフを口に出した。
「そうだ。君たちにはもっといろいろと話を聞かせてもらいたいからな。たとえば……君が腰に下げている、赤い柄のその剣のこととかな」
「……!」
明らかに動揺した表情を出してしまったルギーレの脇腹をルディアが肘でつつくが、それもすでに遅かった。
今度はそれを見た赤髪の男が口を開いたからだ。
「おおかた、俺たちに会わないうちにさっさと逃げようと思っていたのだろうがそうはさせない。抵抗すればこちらも実力行使をさせてもらうぞ」
「……」
二人と顔を向かい合わせて話し込んでいるうちに、騎士団員たちがいつの間にかいつの間にか二人の全方位を取り囲んで逃げられないようにしていた。
それを見たルギーレはガックリと肩を落とし、ルディアはやれやれといった表情で首を横に振った。
だが、ルギーレには一つ気になることがあった。
「なぁ……あんたらって何者なんだ? まさか冒険者じゃなくて……」
その先は黄緑髪の男が続ける。
「正確には「元」冒険者であり「元」傭兵で、今は帝国騎士団員だ。私の名前はウェザート。こっちは同じ騎士団所属のロラバート。というわけで、君たちをこのまま帝都の城まで連行させてもらう」
思いもよらない場所で思いもよらない相手の登場に、二人はこの町で勇者パーティーに出会ったとき以上の驚きを隠せなかった。




