173.壊滅した帝都アクティル
「うわあ、こりゃあひでえな」
「本当ね……」
本当はここまで来る途中で、ロサヴェンとティラストの二人と事前に約束していたはずの剣術の特訓をさせてもらうつもりだったルギーレは、それもせずに急いでやってきたアクティルの余りの惨状に呆然とする。
その隣では、同じくのんびりとここまで来る予定で話を進めていたルディアも彼と一緒のリアクションをするしかなかった。
目の前に広がっているのは、このイディリーク帝国の帝都アクティル「だった」場所の残骸が広がっているだけだったのだ。
多くの難民たちを生み出し、周辺の町や村を中心に疎開先を決めて移動させているものの、手筈がまだ整っていない場所も数多くありなかなか難航しているようである。
それでも今の自分たちができることをするしかない状況では、少しずつ前に進むしかなかった。
「ここに来るまでに難民のキャラバンたちと何回かすれ違って、情報を仕入れていたとはいえ……余りにもむごいな」
「それもこれも全て、あのニルスやバーサークグラップルのメンバーたち、そして勇者だった人たちがやったことなんですね……」
「しかも、未だに魔術が使えない状態が続いているってなると復興作業も難航するだろうなあ……」
自分たちはあの連中の足取りを追いかけるのと同時に、伝説の冒険者ルヴィバーとレイグラードにまつわる話を仕入れに来たはずだったのに、この状況では全然無理なのは間違いない。
ひとまずこっちの手元にあるレイグラードは隠したので問題はないと思われるが、そう考えてみるとレイグラードの魔力も魔術と同様に無効化されてしまうのかもしれない。
この町でいったい何をすればいいのか?
それはまず、自分たちもこの復興作業を少しでも手伝うことであった。
「ディレーディ陛下が話していらしたんですけど、他の三か国にも声をかけてイディリークにも少しだけ人を送ってくれるように頼んでいただけるみたいです」
「ああ、それは俺もリルザ陛下から聞いたよ。でも俺たちのヴィルトディンも壊滅的な被害を受けているから厳しいかもな」
「そうですよね。でも、そのお気持ちだけでも受け取らせていただきましょう」
実際の話、これまで数々の国があの連中によって被害を受けているので、今は自分たちのことでいっぱいいっぱいなのだ。
ひとまずはこの町での復興作業を手伝いながら、情報収集のために動こうとするメンバーたちだったが、そう簡単にはいかなさそうなのも現実だった。
「じゃあ俺たちは向こうの方を手伝いに行ってきますよ」
「私たちは向こうですね」
ルギーレとティラスト、ルディアとロサヴェンとジェディスのグル-プでそれぞれ別れて行動を始めた一行は、復興作業を手伝うべく各地に散らばっていく。
そこで仕入れた情報によれば、この国の人間たちにとってはその黒ずくめの集団が何者なのかもまるでわからない状況だった。
「副騎士団長から流れてきた話によれば、リュシュター陛下は上手く逃げおおせたらしいです」
「そうですか、それは一安心です。しかし騎士団長が意識不明の重体というのが困ったところですね……」
ティラストはそれについて懸念を隠せない。
リュシュターからの話によると、自分を狙ってきたのは金髪のレイピア使いで、上下を青い服装で統一した小柄な女だったらしい。
それを聞いたルギーレは、その女というのが誰なのか見当がついた。
「それって多分、勇者パーティーで一緒だったベルタって女だろうな」
「そうなんですか?」
「ああ。そんな派手な格好してて金髪のレイピア使いの女なんてそいつぐらいしか思いつかんですよ。あいつは今でも向こうの仲間だから、そう考えるとつじつまが合いますよ」
そのリュシュターを逃がして、ベルタと思われる女と戦った騎士団長が敗北したのもルギーレは納得できる。
「あいつはパーティーの中ではあんまり俺を邪険に扱っていなかったんですよ。どっちかっていうと俺をかばってくれたこともあったんですが、最終的には他のメンバーたちと一緒に俺を追い出して向こうについてんですから、結局同類だったってことです」
「へぇ、完全に味方がいなかったわけではなかったんですね?」
「そうですね。でも、味方だった女だろうがそうでない奴だろうが、こんなことをする奴らを許せない気持ちでいっぱいなんですよ」
一方、ルディアたちの方は手作業で怪我人の救出に当たると同時に、根本的な解決に向けて行動していた。
今もまだ魔術が使えない状態が続いているので、どうにかしてその原因を突き止めて元の状態に戻さない限り、この惨劇はさらに拡大することだろう。
「魔術が全く使えないっていうと、絶対あの連中が何かしたに違いないです!」
「俺もそう思う。でも、これだけの芸当を起こせるなんてどんな魔術を使ったんだ?」
悩むルディアとロサヴェンだが、その時ジェディスがある事を思い出した。




