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170.囮

 槍とレイピアによる壮絶な戦いが幕を開ける。

 今はこんなに堕ちてしまったものの、やはり腐ってもAランクの冒険者というだけのことはあり、騎士団長のジアル相手でも全く引けを取らないベルタ。

 彼女のレイピアから繰り出される多彩な攻撃の数々は、そのトリッキーな軌道も合わさって魅了されている者は多い。

 そのベルタは槍のリーチをものともせず、しっかりと動きを見切って突き攻撃を繰り出すのでジアルも苦戦気味である。


(く……Aランクの冒険者なのは知っているが、まさかこれほどまでとは……!?)


 ジアルは相手が冒険者だからと言って特に何とも思わないのだが、それは彼が気が付かないだけで無意識のうちに騎士団の方が上だと思い込んでしまっていた。

 こっちは戦闘のプロのはずなのに。 実戦経験だって豊富なはずなのに。

 どうして今、自分がこの場でレイピア使いに追い込まれているのだ?

 鳴り止まない金属音と、先に逃げて行ったリュシュターの安否を気にするのも相まって心にだんだん焦りが生じてくる。

 こんな相手にかまっている暇などないのに、ベルタは先へと進ませてくれない。


(このままではまずい……この部屋の中では俺の槍も満足に振り回せないな。だったらいっそ……!)


 戦う場所を変えてしまえばいい。

 ジアルは自分に向かってくるレイピアを弾いて軌道を逸らし、一気に彼女の横をすり抜けて廊下に出る。

 当然、後ろからはベルタも追いかけてくる。


「逃げるんじゃないわよ! 待ちなさい!」

「逃げてなどいないさ」


 これは貴様に勝つための作戦なんだからな、と言いながら振り返ったジアルは、自分に向かって走りながら突き出されるベルタのレイピアを素早く横にスライドして回避し、一歩踏み込んで一気に槍を突き出した。


「きゃぁっ……ぐふっ!?」


 槍の先端がベルタの右脇腹を捉える。

 そのまま動きを止めて床にレイピアを落としてしまった彼女は、槍が引き抜かれると同時に全身から力が抜けてドサリと床に倒れこんだ。


「ふん……ここまで来られたその実力は認めてやろう。しかし相手が私だったのが運の尽きだったな」


 脇腹から血を流すベルタを見下ろしてそう呟くジアルだが、彼女の口から力なく笑いが漏れる。


「ふ……ふふふふふ……」

「何がおかしい?」

「おかしい? おかしすぎ……るわよ。だって……あな、たはすっかり……騙されてる……もの」

「何?」


 言っている意味が理解できないジアルが、息も絶え絶えのベルタに問いかけてみれば、彼女は衝撃的なことを言い出した。


「これだから体力しか能のない騎士団員を騙すのは楽なのよ……だって、私がここに乗り込んできて、あなたがあの陛下を逃がしている最中に……この国にあるレイグラードが奪われて……いるんだか……ら」

「何だと? それはあり得ない。あの剣は魔術でしっかりと守られているはずだぞ!」


 力強くそう言うジアルだが、ベルタの嘲笑は止まらない。


「ふふ……だったらどうし……て私たちが、この城の中にこんなに突然大勢で入って来られている、のかしら? それは魔術防壁を破れるだけのことをして……いるからよ」

「……まさか、いきなり魔術が使えなくなったのはお前たちの仕業だったのか!?」

「やっと気が付いた……の? 馬鹿ね。そんなんだから今頃レイグラードを奪われているのよ……はは、ははは!」

「き、貴様ぁ~っ!!」

「嘘だと思う、ならちゃんと確認すれば? レイグラードがある場所に行ってみれば、私の言う……ぐふっ!? ことが、正しいってわかる……うぐっ!! わよ!」


 苦しそうにせき込みながら、その言葉を最後に意識を手放して動かなくなってしまったベルタを見下ろして、ジアルは踵を返して走り始めた。


(レイグラードが奪われただと? そんなはずはない。ありえない。あれはわざわざシュアから呼んだ超一流の魔術師たちが結集して造った二重三重の魔術トラップで守られている、我が国の国宝だぞ!?)


 この城の地下深くにしまわれているはずのあの剣を、そう簡単に持ち出せるはずがない。

 保管場所に行くには厳しい手荷物検査を受けなければならない。それは騎士団長のジアルも例外ではない。

 さらに、もし守っている魔術防壁を正しい順序で解除しなければ即座に城の中に警報が鳴り響き、内部で警備を担当している騎士団員たちが一斉に駆けつける。

 その上、無理に盗み出せたとしても帰り道ではその侵入者を排除するための強力な魔物を生み出す仕掛けが作動するので、この防衛ラインを全て突破できるわけがないのだと信じながらジアルは地下の保管場所へと向かった。

 そして、そこで見た光景は……。

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