169.突入
「よし、ソフジスタ城の正門が開いたから城内に乗り込むのよ!」
「一気に潰すぞ!!」
ベティーナとマリユスは、アクティルの城下町を見下ろす位置にあるソフジスタ城に乗り込むべく強化人間たちをうまく操っている。
その一方で、裏口近辺ではバーサークグラップルのメンバーたちを従えたベルタが控えていた。
(ライラとリュドの話だと、やっぱりこのソフジスタ城の中にもう一本のレイグラードがある可能性が高いって言ってたから、そこに賭けてみるしかないわね!)
レイピア使いのAランクの冒険者である彼女は、素早いレイピアの動きと強力な魔術の的確な使用タイミングで大型の魔物相手でも怯むことなく突っ込んで行く性格。
しかし、最近はリーダーであるマリユスやサブリーダーのベティーナの性格に頭を痛めており、この二人と一緒に居て良いのだろうかと考え始めている。
それでも今回の作戦の突入部隊長を任せられた使命と、今のパーティーを出ても他に行くところがない以上は今の自分がやるべきことをやるだけである。
正門からマリユスとベティーナたちが突入して城の人間たちの気を引いている間に、リュドの知り合いの情報屋から手に入れた裏口を伝って城の中に潜入する手はずになっている。
もう一本のレイグラードがどこにあるのかを突き止め、それを奪ってさっさと退却するのが彼女の部隊に与えられたミッションである。
(思った通り、裏口は全然警備が手薄だわ!!)
レイグラードを手に入れるために開発されたニルスの便利グッズには、今回使用している効果抜群のものもある。
それこそが、魔術防壁を無効にしてしまう妨害魔力の発生装置である。
ニルス以外には原理は全くわからないが、やや大きめの本ぐらいの大きさしかないその魔力を妨害する小型装置についている赤いボタンを押せば、周辺の魔術を全て遮断してしまう優れものである。
しかしその反面、自分たちが使う魔術も全て無効になってしまうのが欠点なので、ここは純粋に力と力だけで戦うしかないのだ。
(まあ、私はそんなに魔術を使えるわけじゃないから別にいいんだけど……魔術師のリュドが待機要員でライラと一緒に待っててくれるのは正解よね)
そう考えながら、自分たちはソフジスタ城の中で向かってくる騎士団員や兵士部隊員たちを的確に潰していく。
目指すはレイグラードのありかなので、それっぽい場所をどんどん探して、開けて、しらみつぶしに駆け回る。
場所がわからないのであれば、全て探してしまえばいいだけなのだから。
(ここもダメ、あそこにもない……全くもう、ちゃんとわかりやすい場所に置いておきなさいよね!!)
なんとも身勝手な理由でしかないのだが、余りにも見つからないだけあってだんだんベルタはイライラが募り始めていた。
そこでふと、本当に唐突にあの役立たずのことを思い出すベルタ。
(こんな時だけ、あの男が仲間にいてくれたらなーって思ったりして……)
そう、こんな時だけ。
あの追い出した役立たずは下調べの良さだけは買えるポイントだったのだが、あのヴィルトディンの地下施設でマリユスの振るう魔斧ドライデンに敗北して逃げ去って以来、どこで何をしているかわからない状況である。
それにあんなのがいなくたって、きっとこの作案は成功する。
そう思わなければ、自分のこの不安な気持ちが消えることもないだろうと思う彼女。
だが、その考えとは裏腹に彼女が出てしまったのはレイグラードのありかではなく、この国の皇帝がいる場所だった。
「……あら? あなたは確か……」
「私の城に堂々と入ってくるとはいい度胸ですね……!」
怒りに燃える金髪の男のオレンジ色の瞳が、同じく金髪で青い服装で上下をまとめているベルタの姿を射抜く。
彼こそがこのイディリーク帝国の皇帝である、リュシュター・セリテュルその人であった。
彼もまた、勇者たちがこんな蛮行を起こす前に各国を回っていた時に出会った一人である。
「勇者パーティーの方々がこの帝都を襲っていると耳にした時はなんの冗談かと思いましたが、まさか本当にここを襲っているとは……残念です」
「あら、ちゃんと情報を共有しているなんて優秀な臣下をお持ちではありませんか。感心しますね」
「それは褒めていないだろう」
そのリュシュターの傍らに立っているのは、今まで寝ていて逃げる準備に手間取ってしまった主君を逃がそうと、護衛として同行する寸前だった騎士団長のジアルだった。
彼は特に好んで使用する愛用の槍の先端をベルタに向けながら、厳しい口調で問いかける。
「貴様、どうやってここの魔術防壁を突破した? かなり強力なものをかけていたつもりだが」
「あら、それをあなたが知る必要はないわよ。だってあなたもその主君もここで死ぬんですから」
「ふざけたことをいうものだ。陛下、ここは私にお任せください」
「しかし……!」
「私にとって、陛下が無事に逃げ延びてくれるのが一番です。もうすぐラルソンも合流する予定ですから、先にお逃げください!」
「……わかりました!」
そう言いながらベルタの横をすり抜けようとするリュシュターだが、黙って行かせるつもりはない彼女もレイピアを振るう。
しかし、その凶刃はジアルの槍によって弾かれてしまった。
「ふっ!」
「邪魔しないでくれる? 獲物は逃がしたくないのよ」
「貴様の相手はこの私だ。さぁ、かかってこい!」




