165.画家からの忠告
『君、このままレイグラードを使い続けていたら死ぬよ?』
「…………はい?」
何を言われたのか頭の理解が追い付かないルギーレは、数秒置いてからそんな返事しかできなかった。
それを気にする様子もなく、さらにシュヴィリスは続ける。
『そのままの意味だよ。僕にはわかるんだ。君の身体は確実にレイグラードによって蝕まれているんだってね』
「いや、あの……意味が分からないんですけど。ルギーレが死ぬってどういうことですか?」
「そうですよ。俺たちにわかるようにちゃんと説明してくださいよ」
ルディアもジェディスもその言葉の真意をきちんと説明してもらいたいのだが、シュヴィリスは一つ条件を出した。
『それは別に構わないけど、今、僕はこうして売り物の絵を描いているからルチャード城で待っててよ。夜になったらちゃんと説明するからさ』
「は、はい……」
自分が死ぬ? レイグラードで?
話がまるで見えてこないまま、その後もルディアとジェディスとともに観光を続けるルギーレだったが、そのセリフは観光中もずっと心の中に引っ掛かりっぱなしだった。
城に帰ってからはそのやり取りを各国のトップたちに伝えられ、護衛としてやってきていたそれぞれの騎士団長たちも驚きを隠せない。
そんなざわめく一同がいる大会議室に、絵を描き終わって城までやってきたシュヴィリスが通される。
「シュヴィリス様がお見えになりました」
「あっ、シュヴィリスさん!!」
宰相のジェリバーが直々に出迎えをして連れてきただけあって、ピリついていた空気がさらに張り詰める。
そんな空気を気にした様子もなく、画家の男は絵の具で汚れた右手の人差し指でビシッとルギーレを指さした。
『どうもこんばんは。ヴィルトディン以外の国王さんとか皇帝さんたちもいるみたいだけど、まあいろいろな人に話しておいて損はないかもしれないね。それじゃあ君とレイグラードについてちゃんと話をしようか』
「……ええ、お願いします」
ルギーレも覚悟を決めて、他の人間たちからの視線が自分に集中するのがいやでもわかってしまうこの状況でシュヴィリスと向かい合った。
『最初に質問させてもらいたいんだけど、まず君は自分が持っているレイグラードについてどこまで知っているのかな?』
「どこまで……って言われても……。レイグラードについては歴史書で読んだぐらいしか知らないですよ。ルヴィバーが戦場で使っていたとかだけですよ」
『まあ大抵、今を生きている人間だったらそれぐらいだね。じゃあ君、今この段階でレイグラードに対して何か疑問に思うことがなかったりしない?』
『疑問? ……あ!』
そうだ、ディレーディやセヴィストが言っていた一言を何気なく聞き流してしまっていたし、自分でもそれが当たり前だと思っていたが、よく考えてみればこれはおかしいと思うことが一つあったのをルギーレは思い出した。
「前と比べて、レイグラードから感じる魔力が強くなっている気がします。この鞘は周囲の人間たちが魔力を感じて怪しまれないようにするために作ってもらったものなんですけど、その鞘を突き抜けるぐらいに魔力が強くなっている気がします」
『へぇ、その鞘ってなんか変だなーって思ったけどそんな代物だったんだねえ。でも君の言っていることは正解だよ。僕が前にレイグラードを見た時と比べて、確かに魔力が強くなってる。……その強くなっている魔力こそが、僕が最初に忠告した内容に繋がるんだよ』
画家の人間に擬態している青いドラゴンは、確かにそう言った。
そこからレイグラードの秘密が少しずつ明かされ始める。
『ここから先は僕が知っている内容しか話せないけど……レイグラードっていうのは、その刃で斬った人間や魔物の魔力を吸って成長するんだ』
「せ、成長……!?」
『そうだよ。レイグラードは生き物みたいな存在なんだよ。今はまだまだ成長しきれていないみたいだけど、最大限まで成長する時が来たら、その時は君が死ぬ時だと思った方がいいね』
「どういうことですか?」
思わずルディアが口を挟んでしまうものの、シュヴィリスは彼女にもしっかりと答える。
『そのままだよ。今まで吸ってきた人間とか魔物とかの魔力を自分の力として溜めるんだ。だけど、それを溜め込みすぎると爆発してしまうのさ。人間だって怒りを溜め込んで我慢の限界を超えて爆発することがあるでしょ? あれと一緒さ』
それに、と最後にシュヴィリスはこう付け加える。
『その柄についている宝玉だけど、それは強化パーツ。人間でいうところの栄養剤みたいなものだよ。今は片方しかないけど、二つとも合わさったら今まで以上に魔力を溜めやすくなるだろうね。僕が知っているのはここまでさ』




