15.それぞれの動き
「……聖剣レイグラード……」
「どうしたのマリユス?」
「前にその剣のうわさを聞いたことがある。ルヴィバー・クーレイリッヒが戦争で使った末に、行方不明になったって伝説のロングソード。それが長い長いときを経て、マリストウィン地方の火山の中から出てきたって」
「火山? 火山って北の方にある?」
マリストウィン地方は、このエスヴェテレス帝国が建国される前に滅びてしまったマリストウィン聖王国の名前をそのまま付けられた地方である。
そしてそこには大きな火山があるのだが、ここにはもう一つ気になるうわさがあった。
「そうだ。その火山といえばあの赤いドラゴンの棲み処だと言い伝えがある場所だろう?」
「そうだね~。そのドラゴンの伝説は私も聞いたことがあるわ~。確か人間の言葉を理解するドラゴンで、かなり長い時を生きたんだって」
「ああ。でもそのドラゴンこそ聖剣レイグラードよりも伝説の存在。古代にはそのドラゴンと人間たちの間で交流があったらしいが、いつのまにか姿を消して今じゃ伝説になってしまった」
そのドラゴンが棲んでいたとされるのが、マリストウィンの火山らしい。
マリユスの話によれば、そのドラゴンが最近になって目撃されたかもしれない、との情報があるらしい。
さすがにこれには勇者パーティーのメンバーも驚きを隠せない。
「伝説のドラゴンが見つかった!?」
「あくまでも噂だがな。そのドラゴンと思わしきドラゴンが最近目撃されたのが、どうやら南のファルス帝国のあたりらしいんだ」
「ファルス帝国って……私とかマリユスの故郷じゃない!」
「ああそうさ。あの落ちこぼれが思わぬ活躍をしてしまったようだから、そっちに向かうとしよう。そして俺たちがその赤いドラゴンを見つけたら、今までの評価も一気に大逆転できるぜ!!」
だが、そこに異を唱えるのはリュドだ。
「ちょっと待って。一旦落ち着こう」
「え?」
「私たちは確かにあの男に先を越された。だが伝説のドラゴンを追うよりも、先に何か別の依頼を成功させて信頼を取り戻すほうが先だと思う」
成功が広まるのは早いが、失敗が広がるのはもっと早い。
その考えからこんな提案をするリュドだが、じゃあその依頼の当てはあるのか? とマリユスが問いかける。
すると、彼女はちゃんとその依頼も考えていたのだとか。
「問題ない。それならファルス帝国方面への依頼をいくつかピックアップしてきたから、興味があるものを選んで」
「あら、用意がいいわねリュド」
「ん~、じゃあここはマリユスに決めてもらおうかしら~」
感心するベティーナの横で決定権をマリユスにゆだねるライラ。
その彼女に話を振られたマリユスは、一つの依頼を指差して決定した。
「これにしよう。ロックスパイダーの依頼よりはレベルが低いはずだ。それから今回はもっと情報収集をしてから依頼を進めるぞ」
これ以上、この町で後ろ指を差されるのだけは御免だ。
もうこんな屈辱を味わうものかと心に決め、勇者パーティー一行はさっさとこの町を出ていくことにした。
◇
そのころ、町へと戻って身体を休めるべく宿を取った二人は、これから東の隣国アーエリヴァへ向かうべく、宿屋の中で情報収集を兼ねて早めの夕食をとっていた。
宿屋の中には食堂もあり、自分たち以外にもたくさんの冒険者と思わしき人間たちが酒を飲んだり話し合ったりしている光景が見て取れる。
そんな場所へとやってきた二人は、さっそくその活躍を聞きつけた冒険者たちから羨望のまなざしを向けられる。
「おっ、あれが噂のロックスパイダーの巣を壊滅したって奴かあ?」
「ねーえ、こっちで一緒にご飯食べましょうよ!」
「俺たちと飲もうぜ! 色々話を聞かせてくれよ!」
普通にロックスパイダーの巣を壊滅させただけでは、こんなに称賛を受けるはずはない。
討伐に行ってから帰ってくるまでの時間がかなり早く、その巣の近くで待っていたギルドの関係者が壊滅を証明しており、すでにこの町のギルドまで連絡が入っていたのだった。
帝国騎士団の団長クラスだってこんなに早く戻ってこられるはずがない。
いったいどんな魔術を使ったら、あの巣をこんなに素早く壊滅できてしまうのだろうか?
冒険者たちの間ではその話でもちきりであった。
だが、この伝説の剣と出会った遺跡のことがあまり大っぴらになるときっといろいろと面倒なことになるかもしれない。
そこでルギーレは、Aランクと高いレベルの冒険者であるルディアの活躍を中心に話を進めることにした。
「……でよぉ、すげー魔術を連発すんだよ!!」
「それもそうよね。Aランクの魔術師ともなればそれだけの魔術はできるわよね!」
「こーやって向かい合って話してても体内の魔力の量が多いのがビンビンに伝わってくるし、そりゃー納得だな!」
しかしこの後、新たに食堂の中へと入ってきた傭兵たちが話を急展開させることになる。




