163.やってきたトップたち
強化人間。
まだニルスたちの仲間になっていなかったマリユスたちからの報告にも、それらしきものの証言があったのを覚えているルザロ。
「目が虚ろで、攻撃を当てても効いているのかいないのかわからない反応をして、敵も味方もわかっているのかいないのかという人間たちのことらしい。あの工場ではその強化人間らしき兵士を配備していたらしいが、ティハーンたちの部隊が駆けつけた時にはすでに工場が炎上していたから、マリユスたちと共に逃げ出すのが精一杯だったらしい」
「そうですか……」
しかし、なんとなくニルスたちのやろうとしていることはわかる。
黒ずくめの集団であるバーサークグラップルを始め、強化人間や改造生物兵器、更には上手く国に取り入って同士討ちを狙おうとするなど、やることなすことがこの世界の悪い連中の最上級レベルと言える。
そして行き着く先は世界中に宣戦布告をするつもりなのかもしれないが、次のターゲットはどうやらイディリークなのかもしれない。
「そうとなると、一応イディリークに連絡を入れておいた方が良くないですか?」
「それは俺も思った。だが、いくら俺が将軍だと言っても一国の国相手にああだこうだ言える立場ではないから、陛下に話をつけていただけるように話しておいた」
「そうですか……」
先ほどは「自分は反対だ」などとリルザやジェリバーに対して言っていたが、本人曰く「あれは別に物申したわけではなくて自分の意見を述べただけだから話が違う」と言うルザロ。
そんなに変わらないんじゃないかとルディアは思うが、それよりも今はイディリークまでどう行くかである。
ヴィルトディンから列車で行くルートか、もしくは船で行くルートしかない現状では、あまり派手に行動するとニルスたちやイディリーク帝国に感づかれてしまう恐れがある。
だからあくまでも移動は目立たないようにと考えるものの、それよりも危険なのは入国審査である。
通行証をもらえば無事に入国が可能……という話ではなくなりそうなのだ。
それはこの国にまではるばるやってきた三人の国のトップたちにも、自分たちがもしイディリークの立場だったら……という話で懸念事項となる。
「ディレーディ陛下が到着されたようです。行きましょう」
「ああ、ようやくだな……こちらのセヴィスト陛下はまだ時間がかかるそうだ」
「そりゃあ地理的にまだ時間かかるわよね。シェリス陛下はあと少しで到着されるらしいけど」
ブラヴァールからの連絡で、まずはエスヴェテレスからディレーディがやってきたことが伝わる。
続いて南のバーレンから列車に乗ってシェリスが、最後に一番遠いファルスからセヴィストがやってきた。
魔術通信によって事前に話が伝わっていた結果、話は非常にスムーズに進むことになったのだが、その議題の中心になるのはやはりルギーレとレイグラードであった。
そもそも、この男がこのロングソードと一緒に旅をしていなければこんなことになっていなかったのだから。
「まあ、バレてしまったものは仕方がない。我らも内緒にしていたことは謝る」
「謝る……か。結局俺たちも騙されていたけど、過ぎてしまったことはもう終わりだ。それよりもこれからの話だろう」
「……なんか、セヴィスト陛下はすっきりしてんのなー」
ディレーディ率いるエスヴェテレスからの謝罪を割とあっさり受け入れるセヴィストと、そんなに簡単に受け入れられないという空気を醸し出すシェリス。
だが、今の話題はそうじゃない。
「それよりも大事なのは、余たちがイディリークの立場だったらどうするかという話と、これからあのニルスとかいう男率いる集団とどう立ち向かうかということだろう」
「そうですね。それではよろしくお願いします」
ルディアの一言で、ややわだかまりみたいなものを感じながらも始まった各国の合同会談。
まずはルギーレの入国についてどうするかだ。
「今までは特に入国審査で呼び止められることとかなかったですけど、さすがにこれ持ってたらまずいっすよねえ……」
「ああ。ここにいても我にはかなりの魔力が伝わってくるからな」
「俺だってそうだ」
ディレーディとセヴィストの二人が、しげしげとルギーレの腰に下がっているレイグラードに注目する。
初めてそれを見た時よりも確実に魔力が増しているので、こんな状態の中で堂々と入国できるわけがない。
そこで名乗りを上げたのは、イディリークの東に位置しているバーレンの皇帝シェリスだった。
「だったらさぁ、俺たちバーレンの南から列車で行くってのはどうだ?」
「列車か……」
「ああ。船だとやっぱ時間もかかるし、バーレン側だったら魔力がどうのこうのってイディリークも文句だって言ってこられねえだろうし。それにイディリークに抜けられるルートなんて山ほどあるぜ」




