160.やっぱりわかんないんだよなぁ
翌朝、リルザから朝食を一緒に摂ろうと提案された外国人たちは、ルチャード城の中にある食堂の長テーブルについていた。
そこでまず、ヴィルトディン騎士団以外の各国の騎士団員たちから重要な発表がされる。
「ディレーディ陛下がこちらに来られるそうです」
「セヴィスト陛下も、同盟を組むのであれば話は早い方がよいだろうとのことでこれからこちらに来られるらしい」
「あら、奇遇ね。シェリス陛下もこちらの方に向かっているらしいわよ」
なんと、三か国のトップが直々にここまで来るのだという。
やると決めたら即座に行動する。これはなかなかできそうでできないことなのだが、それを今の状況でやろうという各国のトップたちの姿勢にルギーレとルディアは謎の感動を覚えていた。
「やっぱりこんな時だからこそ、お互いが協力しなきゃならないってことなんだろうなあ」
「そうよね」
うんうんとお互いにうなずきあいながら食事に手を付けていく二人だが、やっぱりあのニルスという男のことが気になってしまう。
「でもさぁ、あのニルスってのは何だったんだ? 確かめちゃくちゃ強かったって話を聞いたけど」
「ええ、強かったわよ」
ルディアがその時のことを思い出しながら口を開けば、横からサラダを頬張っていたファルレナが口を挟んできた。
「正体は不明ね。どこから来たのか、どんなバックボーンがあるのか、一切何もわからないわ」
「わかることといえば、あの男はとてつもない強さを持っているということだけ……」
そう、まさにそれだけなのだ。
だが、見た目が妙に若いのにあれだけの人数の集団を率いることができるうえに、ヴィルトディンにうまく取り入って裏から手をまわして上手くエスヴェテレスとの戦争に持ち込もうとしていた。
それを考えただけでも、あの男にはカリスマ性があるのかもしれない。
「ということは、あの男の足取りをつかむのは相当難しそうだな」
「やはり陛下もそう思われますか?」
「ああ。あの男が持ってきた書類や資料を城の中から探していたんだが、奴は自分の計画がこうしてバレた時のことも考えていたのだろう。すべて破棄されてしまっていた」
「用意周到ですね」
ブラヴァールが苦笑いをしながらつぶやく。
その割には、密偵を入れられていろいろと調べられてしまうあたりは詰めが甘いのかなあとも思ってしまうが、よく考えてみればその男の素性までは調べることができていない。
ロラバートも、それからファルレナもだ。
素性がわからなければ足取りを追うこともできないので、これではどうしようもないではないか。
「そうなると困ったな……リルザ陛下、それからジェリバーさまはそれいがいになにかニルスというその男について見聞きしたことはございますか?」
「いいや、私も陛下も無いですよ。あの男は「人には秘密の一つや二つあった方が、ミステリアスで面白いでしょ?」と言って上手くその辺りをはぐらかされてましたからね」
「そのような秘密事項がある者を自分たちの近くにおいて、平気だったのですか?」
他国の人間といえど、同じく主君のそばで仕える者として率直な疑問を口にするルザロに対して、リルザもジェリバーも顔を見合わせて苦笑いをこぼすしかなかった。
「平気ではない。その辺りは余もジェリバーも反省せねばならぬな。平気ではなかったからこそ監禁されてしまっていたんだし」
一国の国王と宰相を監禁し、強引なこじつけで周囲を納得させ、さらに地下施設の建設やエスヴぇてレスとの戦争に注目させることでその二人の所在に目を向けさせないようにする。
無理やりな感じはあれど、策略を練っていたことは間違いないと思われるニルスは結局どこに行ってしまったのだろうか?
ならば国内の情勢に詳しいであろう、この二人に話を聞いてみることにする。
「そうですか……なら、そっちの将軍二人なら何か知っているんじゃないのか?」
「いや……それがな、俺たちも陛下と同じくらいしかあの男から話を聞いてねえんだよなあ」
「そうそう。私もクラデルも、あの男と戦って話をしたことはあったが生まれ故郷のこととかははぐらかされてしまったよ」
(そこは気にならねえのかよ、あんたら……)
思わず心の中で突っ込みを入れてしまったルギーレだが、もう逃げてしまったあの男のことをここでああだこうだ言っていても始まらないので、とにかく早く情報を集めないとならないだろう。
ルザロの相棒的存在である警備隊長のシャラードがファルスから旅行に来ていた時に、黒ずくめの集団……もう「バーサークグラップル」という名前も頭に残るようになったその連中と出会ったのも、恐らくはバーレンへの襲撃を計画していた途中だったのかもしれない。
いずれにせよいろいろな話を各地で聞いてみないとわからないだろうと考える一同の中で、声を上げたのは副騎士団長コンビの片割れである弓使いのジェディスだった。




