159.誤解が解ける時、それは同盟を組む時
そして、エルガーはその城を襲った張本人がニルスだと知らないまま再会して治療してしまったのだ、と口から明かされた。
「……と言うわけでして、その時はまだ私とこのルギーレという者が味方同士だとは思ってもいませんでして」
「ふむ、なるほど。しかしルディアさんが陛下から渡されたあの薬を使ったことで、何とか傷をつけることには成功しましたね」
エルガーとルザロ、そしてルギーレからの話を聞いてジェリバーが考え込むそぶりを見せる。
結局、あのニルスという男も知らず知らずのうちに姿を消してしまったバーサークグラップルのメンバーたちも、全てはヴィルトディンとの同盟を組むふりをして策略を巡らせ、自分たちの手をなるべく汚さずに戦争を起こそうとしていた。
ヴィルトディン、そしてエスヴェテレスを二か国とも効率よくつぶす為に必要なのは、裏からうまくコントロールして潰しあいをさせるのが最も効率の良いやり方だった。
「この展開になってくると、余たちとしても黙ってはいられない。幸いにもあの地下施設や残していった兵器の残骸の数々は、これから先の世で役に立つだろう」
「まさか、本当に戦争で使う気なのですか?」
リルザの発言に思わずそう口走るルギーレだが、話にはまだ続きがあった。
「そうは言っていない。あの新型兵器は技術としては未知なるものばかりだから、人々の生活に役立つ何かの開発に応用できるものがあるかもしれないだろう?」
「あ、そうか……」
「それに、地下施設だってこの王都の二倍はあるぐらいの広さなのだから、当初あのニルスという男が言っていた通り緊急時の避難場所としてはもってこいだろうしな」
だが、雨が降ってきたときなどに水が流れ込んでくる可能性もあるため、非常口としていろいろとこれから考えておかなければならないだろうともリルザは言う。、
それもこれも、後はヴィルトディンが考えなければならないのだがニルスの話だけはまた別である。
「しかし、あの逃がしてしまったニルスやお前が対峙したというドライデンという斧を使う勇者……あの者たちの行方が知れない以上、まずはどこかに身を隠して勢力の強化を図ったりするかもしれん」
「そうなると確かに厄介ですね。俺、あの連中にまだ宝玉を持っていかれたままですもん」
その宝玉が二つとも揃わない限り、ルギーレが持っているレイグラードの本当の力は発揮できないはずだと確信する一同。
そして何よりも気になるのは、マリユスが使っていたドライデンの話である。
「あれは攻撃力も攻撃範囲も、それからスピードも俺のレイグラードをもってしても手も足も出なかったです」
ヴィルトディンのメンバーからの情報によれば、新開発兵器はあの大型の生物兵器だけではない。
ドライデンを始めとする恐ろしい武器も開発されていたとの話だったのだ。
その今までの話を聞いていて、リルザは玉座に座りながらある一つの決意を固めていた。
「奴らは本気でこの世界を支配するために動いているのであれば、余たちとしては今回の事件のこともあるし、ファルス、エスヴェテレス、そしてバーレンと同盟を組まなければならない時が来たようだな」
「陛下……果たして上手くいくでしょうか?」
心配そうな声でそう問いかけるジェリバーに対し、リルザは微妙な表情でうなずく。
「わからない、というのが今の余の考えだ。我らは別にどこの国とも敵対しているわけではないが、あの黒ずくめのバーサークグラップルという連中がどこまでの勢力があるのかわからない以上、こちらとしては同盟を組んで戦力を強化するべきだと考えている」
そう、これはヴィルトディンだけの問題にとどまる話ではないのだ。
同盟を組んで対抗することぐらいしか思いつかない現状では、幸いにもこの場所に他の三カ国の代表者たちもいることなので、それぞれ上手く話してほしいと頼み込む。
「わかりました。それでは私はディレーディ陛下に話してみましょう」
「私もシェリス陛下やロナ様と相談してみます」
「ファルス帝国としては最大限の協力をしたいところですが、まずはセヴィスト陛下に報告を持ち帰ってからの話になります」
「ああ、それではよろしく頼むぞ。今回の件も協力してもらって感謝する」
そして最後に、残ったルギーレとルディアには別の任務がリルザから下される。
「お前たち二人は、あの逃げて行ったニルスという男の足取りを追いかけてくれ」
「わ、私たちがですか?」
「ああ。傭兵と冒険者というのであればフットワークも軽いだろうからな。……なぁに、心配するな。余たちヴィルトディンからも一人の協力者を出させてもらおう」
「え?」
いったい誰が協力してくれるのか?
その答えは明日の朝発表する……と言われてしまった二人は、その日は仕方がないので後片付けを少し手伝ってから眠って体力を回復することにした。
第四部 完




