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156.「少しばかり」の本気

本日分のアクセス数が1万オーバー達成しました。

これからもよろしくお願いします。

 ロングソードをハルバードで受け、反撃に転じるクラデル。

 だが、ニルスはクラデルが苦手とする戦い方をする剣士であった。

 クラデルの攻撃はパワーで押し切る豪快な戦い方だ。

 その分、大振りで隙も大きくなりがちかと思われているのだが、パワーを出すためにはある程度のスピードもいるので並の相手では避けられないぐらいの速さはある。

 しかし、今回の相手は並どころか自分よりも格上の男。

 クラデルは前回ニルスと戦った時も思っていたのだが、同じ将軍であるエルガーと同じくらいにいやらしい戦い方をする相手だと感じていた。


(くっそ、こいつは別にもう一つ目がついてんじゃねえのか!?)


 そうじゃなければこんなにも先を読まれて避けられ、的確に急所を狙って来られるわけがない。

 かと言って、同じような戦い方をするエルガー相手にはパワーで押し切ってロングソード同士の勝負でも勝ちを収めていたのを、クラデルはその目でしっかりと見ていた。

 つまり、戦う相手によって戦法をいくらでも変えられる引き出しの多さもあるということだ。

 いったいこいつはどこでこんなテクニックを身につけたのだろうか?

 クラデルは隙を見せないように戦おうとするものの、長年パワーで一直線に攻めまくってきた自分のスタイルを急に変えることはできそうになかった。


「ふっ!!」

「ぐあっ!?」


 ルザロとの戦いで負った傷を応急処置しただけでは、その本来のパワーも出せないし動きも鈍くなる。

 そこを見逃さなかったニルスは、しっかりとクラデルの腹を捉える剣筋を見せる。


「将軍だからって恐れることはない。将軍である前に一人の人間。今の君相手だったら、私は魔術を使わなくても楽に勝てるよ」

「くそっ……くそ……!!」


 勝ち誇ったように、今までとは違う微笑みを見せるニルスはトドメを刺すべくジリジリと近づいてくる。

 このままじゃあヴィルトディン騎士の名折れであるが、身体がいうことを聞いてくれずにもはやここまでか……と目を閉じたその時だった。


「はあっ!!」

「……っと!?」


 素早く斜め前方に飛んだニルスは、後ろから急に膨れ上がった殺気をすんでのところでかわすことに成功した。

 その殺気の持ち主はといえば、いつのまにかこの場所にやって来ていた一人の傭兵だった。


「大丈夫か、将軍!?」

「……お前はロサヴェン? 何でここに……」

「さっき部屋の中で寝てたら笛の音が聞こえて、その笛の音を追いかけて城の中を歩いていたら中庭が騒がしくなったから、こうして来てみたらこの有様だ」


 そう言いつつ、歴戦の傭兵ロサヴェンは手に持った自分のロングソードを構えた。

 しかもそのロサヴェンとニルスの戦いの横では、いつのまにか現れた彼の相棒であるティラストの姿もあるではないか。

 彼はリルザたちと一緒に城下町へと出て行ったはずなのに、なぜ戻って来たのだろう?


「大丈夫ですか、ヴォンクバート将軍!」

「あー……悪りぃ、ちょっとヘマしちまったぜ」

「動かないでください。今、回復魔術をかけますから」


 ロサヴェンとティラストは同じロングソード使いなのだが、ティラストは魔術も少し使えるのでこうして回復魔術や防御魔術でサポートをすることもある。

 その回復魔術で動けるようになったクラデルだが、まだ油断はできないのでここはギャラリーに回るしかなかった。


「助けてくれてありがてえけど、陛下とジェリバー様は……?」

「城の中へと戻られました」

「はあっ!?」


 ニルスに聞こえないように小声でやり取りする二人の横では、そのニルスとロサヴェンのバトルが幕を開けていた。


「君の噂も聞いているよ。でも、君の傭兵人生もここで終わりだね!!」

「さて、それはどうかな?」


 少しばかり本気のニルスが振るうロングソードが、本気で振われるロサヴェンのロングソードとぶつかり合って火花を散らし始めた。

 お互いに軽快なリズムで打ち合いを続けるが、それを見ているクラデルは絶望感に心が支配され始めていた。


(ダメだ、この勝負……ロサヴェンは負ける!!)


 ロサヴェンの顔にだんだんと疲労の色が浮かび始めるのがわかる一方で、ニルスはまずこれだけの相手を倒して、さらに自分とも戦って疲れが溜まっているはずなのに、まだその表情には余裕が窺える。

 いや、それどころか薄ら笑いまでしているではないか。


(くっそ、だったらこんな怪我なんか治療してもらったから、これ以上我慢してられっかぁ!!)


 目の前で仲間が不利になっているのに、このまま黙って見ているわけにはいかない。

 傷も疲労も回復したので、ロサヴェンに加勢するべくクラデルは駆け出したが、その瞬間ニルスは左手を懐に突っ込んで取り出したナイフを投げつけて来た。


「ふっ!」

「なんの!!」


 それを避けるのではなく、自分の武器のリーチといまだに衰えない反射神経で弾き飛ばして一気に近づくクラデルだが、次の瞬間ニルスの姿がふっ……と目の前からかき消えたかと思うと、ワンテンポ遅れて鈍い痛みが腹部を襲う。


「ぐあっ!?」

「ダメじゃないか、怪我人はじっとしてなきゃあ……さ!!」


 腹を再び切り裂かれ、クラデルは地面へとゆっくり倒れ込む。

 そして意識を失う寸前に見たものは、ニルスによって左肩から右の腰に向かうラインで斬られて勝負を決められてしまったロサヴェンの姿だった。

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