154.逃げると見せかけて
「陛下、城下町へ逃げましょう!!」
「……ああ!!」
外国からやってきた三人にこの場を任せて、ヴィルトディン王国の面々は城下町を抜けて安全な場所に身を隠すことにした。
ここにいては危ない。城の中で昨日まで普通に執務をしていたはずの男が、今こうして自分たちに牙をむいている。
その実力のほどは自分たちが誇る双璧の将軍を同時に倒してしまい、勇者パーティーの五人を同時に相手にしても負けなかった。
それは現在逃げているリルザやジェリバーも見ているので、あの男に殺される前にさっさと逃げてしまった方がいい。
……と考えていたのだが、それは最初に城下町へ逃げようと叫んだジェリバーの策略だった。
「ここで裏をかくんです」
「裏?」
「はい。あの男は確かに危険な男ですが、まだあの者たちが足止めをしてくれています。ですから私たちは城の中に戻り、ニルスが何をしていたのかを確かめるチャンスです!」
それにあの三人だけに任せるわけではなく、城の中にいる騎士団員たちやバーサークグラップルのメンバーたちに中庭に行って援護をするように呼びかけようと提案する。
それを聞き、リルザの脳が回転を始める。
「……そうだな。城の中にいる連中は余たちのことをまだ仲間だと思っている。先ほどの話を聞いていると、ニルスは余たちヴィルトディンだけではなくバーサークグラップルも裏切るつもりだろうからな!」
「はい、おっしゃる通りです陛下。それにまだこの城の中には自分たちの部下が大勢いますし、下手に城下町に逃げてしまえばあの男に追いかけられた時に城下町が破壊されてしまう可能性があります!」
それを避けるためには、逃げると見せかけて城の中に戻ってしまうのが一番安全だと気が付いたヴィルトディンの三人。
旅行に出かけると言っていたジェリバーも、風邪をひいていたとの話だったリルザも実際はニルスの手によって強引に直筆でその手紙を書かされてしまっていた。
そして戦争が始まるまでの間だけ監禁をされて、時が来たら出されて何も知らないままの状態ですぐに開戦。リルザとジェリバーは首を狙われる立場となる……というのがニルスの立てていたシナリオだったようだ。
「だが、それを止めてくれたのがロイティン……お前とあの外国人たちなんだな」
「もったいなきお言葉、ありがとうございます。ですがまだ終わっていませんから、まずは各方面への通達を進めましょう」
「そうだな。将軍たちの居場所はわかるか?」
「将軍たちは城下町へと出て行ったっきりですが、今日は地下施設の視察へと向かっているはずです」
「となれば、将軍たちに連絡が取れるはずだな」
リルザとジェリバーは顔を見合わせてうなずき、国王の執務室へと向かって魔晶石を取り出す。
そしてまずは、王宮騎士団長のエルガーに連絡を入れてみる。
だが、その魔晶石の向こうから聞こえてきたのは息も絶え絶えの声だった。
『はっ……はい? 誰だ?』
「余だ、リルザだ」
『へ……陛下!? 陛下なのですか!?』
予想外の人物からの通信に驚きを隠せないエルガーは、最大限まで息を整えてその連絡に応じる。
『あ、あのっ、お身体の方は大丈夫なのですか!?』
「ああ、そのことについてだが全くの噓だったんだ。それよりお前は今どこにいるんだ? できれば余と顔を突き合わせてしっかりと話がしたいんだが……」
今までなぜ自分とジェリバーが姿を消していたのか。
そもそも自分の風邪はまだいいとしても、ジェリバーの旅行は無茶苦茶な理由でよく今まで隠し通せていたもんだと思いながらそう言うリルザ。
しかし、リルザの言葉にすぐに応えることはできないのが現在のエルガーだった。
『も、申し訳ございません! 今の私は手が離せません!』
「なぜだ?」
『地下施設に入り込んできた賊を追いかけて、騎士団とバーサークグラップルで城下町中を駆け回っております! 申し訳ございませんが、賊を捕まえ次第また後ほど連絡をいたします!』
「あ、おい、ちょっ……!?」
そのことについて話をしようかと思っていたのに、一方的に通信を切られてしまって呆然とするリルザ。
傍らで話を聞いていたジェリバーとロイティンは顔を見合わせる。
「なんだか大変なことになっているみたいですね。それでは私がヴォンクバート将軍に連絡を入れてみます」
「ああ、頼む……」
通信を入れ始める宰相を横目で見ながら、ロイティンは心当たりをリルザに話しておく。
「陛下、もしかするとその賊というのは先ほどの外国人たちの仲間かもしれません」
「なんだと? それじゃあやはりあの三人は本物の賊じゃあ……」
「いえ、俺があの三人から話を聞いた限りでは地下施設の調査に向かい、そこで我らヴィルトディンとエスヴェテレスとの戦争を回避するために動いているそうです」
「……わかった。何が起こっているかはわからないが、とにかくジェリバーとヴォンクバートとの通信を聞いてみよう」




