151.裏で操っている男
ルディアがその男を見据えたまま、こう呟いているのがブラヴァールにもハッキリと聞こえた。
「何で……? あなたの仲間じゃないの? 何でこうも簡単に殺せちゃうの?」
(仲間?)
あなたの仲間? ヴィルトディン騎士団員たちやバーサークグラップルの連中が仲間?
それを聞き、彼女の後ろからブラヴァールが声をかけた。
「あなた……もしかしてニルス・ベックマンですか?」
「あっ、ブラヴァールさん!! この人がこの人たちを全員殺したんです!!」
「はい……察しはつきますよ」
「おや? 私のことを知っている人がもう一人来たんだね」
察しがつくのはいいのだが、まだルディアの質問に答えていない男を見据えるブラヴァール。
髪の色は黒、目の色は緑で温和そうな顔立ち。紫色の上着に青いズボン。茶色のロングブーツに同じく茶色の皮の小手。裏が灰色で表が黄色いマント。くすんだ金色の肘当てに胸当てに肩当て。
なんともカラフルな服装と装備が目立つその男こそ、この事件の……いや、これまでエスヴェテレス、ファルス、そしてバーレンで起こった数々の事件を裏で全て操っていたのではないかと推測できる、ニルス・ベックマンだった。
そのニルスは、抜き身のロングソードを片手に余裕の雰囲気を醸し出しながら微笑んでおり、その笑みを絶やさないままルディアの質問に答え始めた。
「なぜ殺すのか……か。私にとっては自分の計画を成功させるための捨て駒にしかすぎないからだよ」
「捨て駒?」
「そうだよ。仲間だ、仲間だって思っているのはこの倒れている人間たちだけだからね。私はそうは思っていないんだよ。私にとっては体よく使えるコマなのさ」
「何がどうなっているのかはわからないですが、エスヴェテレスに対して戦争を仕掛けるために動いているのはわかります。それからそのエスヴェテレスが戦争を仕掛けてきたとの情報を流す準備をしているのも、すでに調べはついています」
ニルスの微笑みにブラヴァールは恐ろしさを感じながらも、今まで集めた情報を頭の中で整理して言葉として彼にぶつけてみれば、その微笑みを絶やさないまま迷いなくうなずくニルスの姿があった。
「そうだね。全て君の言うとおりだ。どこの誰なのかは知らないけど、よくそこまで調べたものだね」
「では、あなたが全ての黒幕だと認めるのですね?」
「うん、そうだよ。私がこの王国の連中を操っているんだ。まぁ……そこまで調べられているのなら、私がこれからやるべきことは一つだよ」
そう言いながら、右手に握ったロングソードを二人に向けるニルス。
「君たちもここで始末しなきゃね?」
「やっぱりそうなるのかしら?」
「そうだよ。だってここまで私が喋った相手をこのまま生かしておくとでも思ってるの……っと!?」
そのセリフが終わらないうちに、ニルスの後ろから躍り出てきた一人の人影が彼に襲い掛かる。
だが、それをギリギリで回避したニルスはバックステップで距離をとって髪の毛をかき上げる。
「ふふ、どうやらまだ仲間がいたみたいだね」
「今までの話は全て聞かせてもらったわよ!」
「ふぁ、ファルレナさん!!」
どうやら近くで今のやり取りを聞いていたファルレナが、二人のピンチを感じて自慢のバトルアックスで斬りかかったのだが、それも不発に終わってしまった。
しかも、そんな奇襲を受けたというのにニルスは相変わらず優雅に微笑んだままである。ここまでの余裕は一体どこから出てくるのだろうか?
それを感じながらも、三人はそれぞれの武器をニルスに向ける。ルディアも魔術を繰り出せるように身構える。
こっちは三人、相手は一人。どんな相手だろうとこっちに分があるので負けるわけがない。
「おとなしく投降しなさい。そして全部ぶちまけるのよ!!」
「嫌だね」
「そうですか。それでは仕方ありませんね。実力行使と行きましょう」
「そうですね。言ってもわからない相手だったら力ずくでもわからせるしかないわよね!」
そう意気込むルディア、ブラヴァール、ファルレナの三人だが、ニルスは笑みを絶やさないままこう言いつつ、ズボンのポケットに手を入れる。
「もしかして三人いるから私に勝てるとでも思っているのかな? 君たち、ここがどこだかわかっているのかな?」
「わかっていますよ!」
「ふぅん、私はそうは思えないけどね」
明らかに挑発しているのが分かる態度だが、ズボンのポケットに手を入れたのはそれだけが理由ではなかった。
ポケットから出した左手に握られているのは、金色の細長い金属製の警笛。
それを取り出して一気に吹き鳴らし、甲高い音を一呼吸分ピィィーッと響かせる。
そう、それは先ほど三人が陽動で騎士団員やバーサークグラップルのメンバーたちを呼び寄せたのと同じことだった。
「敵襲だ!! 三人の賊が私たちの仲間を殺して回っている!! 助けてくれ!! 私まで殺されてしまう!!」




