150.陽動、手助け、その後は……。
そこで三人にやってもらうのは、この城の隠し部屋に潜入するための陽動作戦への協力だった。
ただし、ヴィルトディン騎士団員たちと必ず戦うわけではなくあくまでも陽動なので、どうにかして近くの見張りの気を逸らしている間にロイティンが扉を開けて国王と宰相を助け出すという算段だ。
「まずは私たちが陽動して、その隙にロイティンさんがティラストさんと合流して二人を助け出す。これでいいわね」
「ああ。危険なことを頼んですまないが、よろしく頼む」
「わかりました」
ルギーレたちがどうなっているかわからないままだが、自分たちを牢屋から出してくれたロイティンの協力要請を聞き入れた三人は、陽動のために動き出す。
なんてことはない。敵を引きつけて上手く撒いて、そして戻ってきたらこの国の国王様と宰相様の二人にご対面するだけの簡単なミッションだ。
そう……この時まではそう考えていた三人だったが、予想だにしていなかった人物の登場によって簡単だったはずの難易度が一気に上がってしまうのだった。
「きゃーーーーーー!! 誰かあああああああっ!!」
城の廊下に響き渡る女の大声。
それを聞きつけたヴィルトディン騎士団員と、騎士団に協力しているバーサークグラップルのメンバーたちは何事かと驚いて声のした方にすぐに駆け足で駆けつける。
だが、そこには誰の姿もない。
「何だよ……メイドか誰かのイタズラか?」
「人騒がせねえ!」
「ったく、こっちは見張りやってんだっつの……」
駆けつけた人間たちが苛立ちを覚えながら、そこから元の場所に戻ろうと踵を返したその時、今度はピイイイッと甲高い警笛の音が廊下に響き渡った。
まさかさっきの叫び声と組み合わせて考えると、敵襲かと一気に緊張が高まる見張りの人間たちを急かすように、二度三度と警笛の音が終わらずに聞こえてくる。
「何が起こっているの!?」
「わからん。だけど四方八方から聞こえてくるとなると、大勢での敵襲とも考えられる……あ、また鳴ったぞ!」
向こうだ! と複数の鳴り響く警笛で動き出した人間たちが駆けていくのを、最初にその警笛を吹き鳴らしたブラヴァールが見送る。
(最初の陽動は完了ですね)
まずは国王と宰相が囚われている隠し部屋へと続く階段のある廊下から、見張りの人員を最小限まで減らすことに成功した。
何かに使えるかと思って、帝国騎士団の制服以外の装備品を持ってきていたのが役に立った。
ファルレナは自分の笛があるし、ルディアはロイティンから笛を借りて陽動に使うことで上手く兵力を分散させる。
次にブラヴァールは自分の武器であるバスタードソードを構えて、残っているバーサークグラップルのメンバーたちを一気に叩き伏せる。
「よし、後は任せるぞ!!」
「わかった、感謝する!!」
見張りたちを倒したブラヴァールの声で、物陰に隠れていたロイティンが動き出し、一気に隠し部屋へと続く階段のある壁の回転扉を回して、階段の上へと消えていった。
だが、ブラヴァールのミッションはこれで終わりではない。
警笛を吹き鳴らして陽動を続けているルディアとファルレナを助けるために、急いで彼女たちのもとへと駆け出し始めた。
(ファルレナさんはバーレンの騎士団で副隊長の座にいるから心配はいらないだろう。だが、ルディアさんはエスヴェテレスで聞いた限りでは魔術が得意でも肉弾戦は苦手だと言っていたな)
ならば、ここはルディアを手助けしてからファルレナと合流する方がいいだろう。
ブラヴァールはそう考えて、ルディアの警笛の音色が聞こえる方へと足を進める。三人の警笛はそれぞれ国が違えば、少しだけ音色も違うのだ。
それでよく陽動だとバレなかったなと苦笑いしつつ、作戦が上手く行ったことに感謝したのもつかの間。
ブラヴァールの耳に聞こえてきていたルディアの警笛の音が止んだ。
(ん? 止まった……?)
もしかして陽動だとバレてしまったのだろうか?
ルディアは肉弾戦が苦手な上に足も速い方ではないのでその可能性は十分に考えられると、ブラヴァールは更にペースを上げて走り続ける。
しかし、その彼の目に飛び込んできたのは全く予想外の展開だった。
「うわっ、ぎゃああああっ!!」
「ぐぅあ!!」
(何だ!?)
廊下の先から聞こえてくる悲鳴。
急いでその悲鳴が聞こえてきた通路に飛び込んでみると、そこには陽動したはずのバーサークグラップルのメンバーやヴィルトディン騎士団の団員たちが倒れていた。
倒れている人間たちにはナイフが突き刺さったり、魔術で絶命させられている痕跡があったことからもしかしたらルディアがやったのだろうか?
そう思いながら通路の先に目を向けてみると、そこにはルディアが自分と同じ方向を向きながら立っていた。
なぜ彼女が自分と同じ方向を……通路の先に目を向けているのだろうか?
その理由は、通路の先に見知らぬ一人の人間が立っていたからであった。




