147.戦う将軍たちと追いかけるルギーレ
二人の将軍のロングソードの刃同士がぶつかり合い、甲高い金属音を立てる。
そこにルギーレが入ろうとするのだが、余りにも気迫が凄すぎて入るのを躊躇してしまう。
それだけ「邪魔するな」というオーラが出ているのだが、かといってルザロ一人だけに任せていてもどうなんだろうという意識が芽生えるルギーレ。
やはりレイグラードを持っていても、そもそもの人間自体は変わらないのだと感じたその時、路地の奥の方に不気味にたたずむ人影を見つけた。
(……ん!?)
将軍たちが戦っているその奥にしか見えないはずの人影なのに、妙な存在感のあるその人物にルギーレは自然と釘付けになってしまう。
その人物はこのルザロとエルガーの戦いに割り込むわけでもなく、腕を組んでギャラリーに徹しているらしいが、薄暗くて顔がよく見えない。
しかしそれでもわかるのは、やけにカラフルな服装と防具を身に着けていることだった。
(目立つ奴だな。でも、何であんな場所で佇んだままなんだ? この二人の戦いを見守ってんのか?)
だがそこまで考えたその時、ルギーレの顔のそばをヒュンと音がして一本のナイフが掠めていった。
突然のことに何が起こったのかわからないまま、ルギーレはワンテンポ遅れてリアクションをする。
「……へ?」
そして飛んできたのがナイフだとようやく認識したところで、不気味な人影が敵なのだと気が付いた。
それと同時に、人影は踵を返して走り始めたのでルギーレは無意識のうちに足を動かしてその人影を追いかけ始める。
更に思うのは、自分に向かって投げてきたナイフのコントロールの凄さだった。
(ってか、あいつすげえな。この狭い路地でルザロ将軍とエルガー将軍が戦っている横をすり抜けて、俺に向かって的確にナイフを突き刺そうと投げられるなんて……)
しかも日の光が余り当たらずに薄暗いのもプラスすると、それだけでもいかにあの人影の武の腕前が高いのかをヒシヒシと感じられる。
だが、だからと言って自分の命を狙ったのには変わりはないのでいったいどんな人物なのか、そしてその人物に仲間がいるのかなどを確かめるべく、エルガーの相手をルザロに任せて路地をひた走るルギーレ。
クラデルやマリユスたちを始めとする追っ手たちは、自分とルザロがここに逃げ込んだことをまだ知らないようなので今のところ心配はないのだが、もし行く手を阻まれるようなことがあればなぎ倒して進むつもりでいた。
しかし、その人影はまたもや妙な動きを見せる。
(……何だ?)
なかなか足が速くて引き離されるかと思いきや、かろうじてついていけているルギーレは違和感を覚える。
わざとスピードを落としてルギーレが追い付いてくるのを待っているようにも見えるのだ。
そして自分が近づけばまたスピードを上げて自分との距離を開き始める。
おちょくられているのか? それとも自分をどこかへと誘い込んでいるのか?
ルギーレはそのどちらかなのだろうと考えて、ここはいったんその人影を追うのをやめて引き返すことにした。
(やめておこう。むやみに突っ込むのは良くねえ)
そう、今までの自分を思い出せ。
勇者パーティーにいた時だって、入念な下調べや物資の準備などで自分はパーティーを支えてきた存在だったではないか。
それがあんな不審な人影に簡単に誘い込まれそうになるなんて、俺らしくもない。
深呼吸をして冷静さを取り戻したルギーレは、走り続ける人影に背中を向けてもと来た道を引き返し始める。
今の時点で大事なのはあの人間を追いかけるのではなく、ルザロに加勢して勝負をこっちに勝たせるように仕向けるのと同時に、ルチャード城に戻ってルディアたちと合流することだった。
その考えをもって力強く路地を走り抜けていくルギーレの背中を、その人影は納得したようにうなずきながら見つめている。
(へぇ……話に聞いていた通り、口は悪いけど一歩引いたものの見方ができる人間なんだね)
このまま上手く路地の奥へと誘いこんで、そこに待たせていた自分の仲間たちと一緒にルギーレというあの男を拘束し、そのまま拉致してしまう作戦だったのだがその誘いには乗ってこなかった。
だが、それは別に今でなくてもいいのだ。
(まあいいさ、私たちの手元にはこれがあるのだから)
心の中でそう呟きながら男がズボンのポケットから取り出したものは、ほのかに光を発している宝玉だった。
それはまさに、今しがた自分に背を向けて走り去っていってしまったルギーレのレイグラードについている宝玉と同じもの。
このもう一つの宝玉がない限り、レイグラードは真の力を発揮できない。
(あの不完全な聖剣と違って、私の開発した魔斧ドライデンは完全体のレイグラードと互角に戦える強さだからな)
だからレイグラードが完全体にならない限り、こちらの軍勢が負けることはない。
先ほどはキリのいいところで引いて逃げてきたが、おかげでいいサンプルデータも取れた。
その結果を土産に彼は……ニルスたちはこのヴィルトディン王国からの撤退を決めて次の計画を進めることにした。




