146.立ちはだかるもう一人の将軍
そのルザロの魔晶石を光らせているのは、やっとのことで死闘を終えたばかりのルディアたちだった。
「……あっ、ルザロさんですか!? ルディアです!!」
『どうした?』
「こっちは大変なことになっていて今まで連絡できなかったんですけど、いろいろなことがわかりました!」
しかし、ルザロからの返答はいいものではなかった。
『わかった。だが今の俺たちは動けないから、合流してから話を聞こう』
「動けない?」
『追われているんだ。今はクリストールの一角に身を隠している。そういうお前たちはどこにいるんだ?』
「ルチャード城です。今は敵もいなくなって安全です」
『わかった。だったらなんとかそっちまでたどり着いてみる』
だが、その会話を横で聞いていたファルレナが口を挟む。
「あのっ、今はクリストールのどこにいるの?」
『わからん。必死で逃げ回って来たからここがどこなのかさっぱりだ。ファルスならわかるかもしれないが、あいにく俺はここの人間じゃないからな」
「わかったわ。それじゃ何か目印になるようなものは……」
『ああ、それなら……』
ルザロから自分の居場所を教えてもらい、迎えに行くことを約束して通話を終了したルディアたちは、そばに控えている近衛騎士団副団長ののロイティンと、彼の相棒であり王宮騎士団の副団長であるジェディスに目を向ける。
心得た様子の二人は顔を見合わせて頷きあい、ルザロたちを助けるために駆け出していった。
そして残されたルディアたちは、自分たちと一緒に戦ってくれた傭兵のロサヴェンに目を向ける。
「まあ、とにかくあの魔術剣士を追い出せて良かった」
「本当ですよ。でもまさか、あなたがヴィルトディン騎士団の内通者だったなんて……」
「正確には雇われの内通者だけどな。あいつらの仲間のフリをして、いろいろと探りを入れられて良かった」
そう、ロサヴェンはバーサークグラップルやニルスたちの仲間ではなかった。
実はヴィルトディンの騎士団員たちの中でも、バーサークグラップルを怪しむ声が多数上がり始めていたこともあって、国王から直々にロサヴェンに任務の依頼が出たのだった。
「リルザ陛下もなかなか無茶を言うから、一度は断ろうと思ったけど断らなくてどうやら正解だったようだ」
「そうですね。あの逃げていったニルスという男はかなり強かったですから」
ブラヴァールも、自分たちを全員相手にして全く臆することがなかったあの黒髪の魔術剣士を思い出して、そのかなりの強さに身が震えた。
だが、近衛騎士団のヴォンクバート団長と王宮騎士団のザリスバート団長の行方が知れないのだという。
「さっき出ていったあの二人が、将軍たちは城下町に向かったって言ってたから、もしかしたら城下町のどこかでルギーレさんとルザロ将軍とかち合う可能性があるわね」
◇
まさにファルレナがそう言っているころ、ルギーレとルザロはその将軍と鉢合わせしてしまっていた。
「少し血の臭いがしたからこっちまで来てみて正解だったようだ。さぁ、もう逃げ場はないから諦めて大人しく投降しろ」
路地裏で身を隠していたルギーレとルザロの目の前に、ヴィルトディン騎士団の青い制服を着込んだ黒髪の男が立ちはだかる。
その服装や髪の色は、ルザロが何とか倒したクラデルと同じだったが、違うのはその体型と手に持っている武器である。
ハルバードを振り回していて体型がゴツく見えるクラデルよりも、どちらかといえば瘦せ身の彼が手に持っているのはルザロと同じロングソードであった。
そして、ルザロもルギーレも彼のことを知っている。
「王宮騎士団長のザリスバート将軍……悪いが、俺たちは投降する気はないんです。そもそも、俺たちはあなたたちを助けに来たんです」
「助けに来た? 意味が分からないな。地下施設を縦横無尽に暴れ回って破壊したという話は先ほど魔術通信で耳に入れてある。もうすぐで私の部下たちもここに駆け付けるはずだから、君たちみたいな犯罪者を逃がすわけにはいかないんだよ、ルギーレさん」
例えそれが見知った他国の将軍や、見覚えのある冒険者だったとしても。
そう言うエルガー・ザリスバートは、ここで二人を逃がすわけにはいかないとロングソードを構えた。
「抵抗は勧めない。大人しく一緒に来るなら怪我をしないで済むぞ」
「お断りだ。それよりも一つ聞きたい、ザリスバート将軍」
「何だ?」
「部下の誰かから魔術通信は入っていないのか? 例えば城に入ってきた奴がいるとか」
「いいや、入っていない」
だとしたら上手く連絡が取れていないのだろう。
ルザロはそう考えるものの、このままでは見逃してくれそうにないのでまた自分が戦うべきだと自分もロングソードを抜いた。
それと同時にルギーレもレイグラードを構えるが、だからと言ってエルガーもここで引き下がるわけにはいかないので、三人はほぼ同時に地を蹴った。




