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13.徐々に広がる話

 ルギーレがメガロックスパイダーを粉砕して、洞窟から出て町へと戻ったちょうどそのころ、彼がパーティーから追放された帝都シャフザートにある、皇帝の居城リーレディナでは新たな動きがあった。

 その皇帝の執務室のドアがコンコンとノックされ、執務に励んで書類に目を通していた部屋の主、ディレーディ・ジリスフォンが顔を上げた。


「誰だ?」

「陛下、ザドールです。大事なお話がございますので入ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、入れ」

「失礼します」


 ドアを開けて執務室に入ってきたのは、短めの茶髪にやや細身の男。騎士団の制服をまとっており、胸には彼の階級を表す金色のバッジがついている。

 彼こそがこのエスヴェテレス帝国騎士団の頂点に立つ騎士団長、ザドール・サイヴェルである。

 そんな彼が大事な話を持ってくるとは、いったい何があったんだ? とディレーディは手を止めて彼に問う。


「何事だ?」

「はっ、ジゾの町の近くで発見された遺跡についての報告です」

「遺跡……ああ、新しく見つかったってやつだな。それがどうかしたのか?」

「そこの遺跡に何者かが侵入したらしい形跡が発見されました。またそれに伴って新しい部屋も発見され、奇妙な物体が部屋の中に散らばっていたそうです」

「なんだと?」


 ザドールの報告に思わず皇帝は身を乗り出した。


「もっと詳しく聞かせてくれ。断片的過ぎてわからない」

「はっ。まず新しく見つかった部屋ですが、遺跡の地下に続く階段の先にある四角くて広い部屋でした。そしてそこでは床の一部が崩落していたほか、金属の塊がバラバラになって放置されており……」


 そこでいったん言葉を切ったザドールは、皇帝の目を見て意を決したように重要なことを口に出す。


「粉々に砕け散った剣と……剣が刺さっていたと思わしき台座のみがほかにあったようです」

「え? それだけか?」

「はい。ですが陛下、その砕け散っていた剣は武器屋であれば世界中どこででも買える普通のロングソードでした。一方、その台座に刺さっていたと思わしき剣の行方がつかめておりません」

「それって……その台座に刺さってた剣と粉々になってた剣が一致しないってことか?」

「そうなります。金属の塊には明らかに剣で斬られた跡があったのですが、到着した調査団がその砕けた剣と切り口を照合した結果、わずかに一致しませんでした」


 それを聞いたディレーディの右の眉が、ピクリと吊り上がった。

 ザドールはその皇帝の反応に殺気が含まれているのを察知しつつも、続けて別の報告をする。


「それとまだいくつか、気になる調査結果がありまして。その部屋に続く遺跡の壁には文様が彫られていたのですが、何者かが魔力を注ぎ込んだ形跡がありました。おそらくは魔力で扉を開けたものかと思われます」

「だとしたら、壁を開けたのは魔術師の可能性が高いな」

「それについてなのですが……ジゾの町の駅の職員が調査団が来る前に気になる人物を目撃しているそうです」

「え? もしかしてそいつが壁を開けた張本人とかいうんじゃねえだろうな?」


 まさかなとディレーディは苦笑いをするが、次のザドールの報告で苦笑いが顔から消えた。


「いえ、どうやらその可能性が高いです」

「……!?」

「目撃された人物は金髪の小柄な女であり、恐ろしいほどの魔力の持ち主だったとの証言があります。駅の職員にその遺跡までの道を聞いていました。ですが、その女は遺跡に向かうとはとても思えないほどの軽装だったようです」

「軽装って、そのあたりに買い物に出るような感じとか?」

「ええ、街中を散歩するような服装だったようです。あの遺跡は冒険者の依頼以外では行く者が居ないうえに、遺跡の調査も止まっているタイミングでそんな人間が果たして、そんな恰好で向かうものでしょうか?」


 ザドールの問いかけに腕を組んで考えるディレーディは、いろいろと考え込んだ後にポツリと一言つぶやいた。


「金髪の女で、かなりの軽装で遺跡に向かったらしい……そうなると、その女を捜したほうがよさそうだな」

「はい。それでその……先ほど入りたての情報もございます。最近繁殖が活発になっているロックスパイダーの巣の近くの町の駅で、その女の目撃情報がありました。それも、黄色いコートを着込んだ茶髪の男が一緒だったそうです」

「そいつがその女の仲間だったということか?」

「そこまでは判明していませんが、二人はロックスパイダーの巣の方角に向かって歩いて行ったらしいです」

「……なんか、まだ話の続きがありそうだな」


 そのディレーディの予感は的中した。

 ザドールは硬い表情のままうなずく。


「はい。そのロックスパイダーの巣の駆除を依頼されたのは、あのマリユスが率いる勇者パーティーだったそうですが、実はそのパーティーとは別にもう二人の男女が同じ依頼を受けていたそうです」

「……まさか、そいつらって……」

「はい、一人は軽装に金髪の魔力が強い女。そしてもう一人は本来であればその依頼を受けることができないDランクの冒険者で、妙な装飾が施されている赤い柄の剣を装備し、茶髪に黄色いコートを着込んでいたとジゾの町のギルドの職員が証言しています」


 それを聞き、ディレーディの表情がかなり険しいものになった。


「……偶然にしちゃ、ちょっとばかし出来すぎだな。そいつら二人の足取りを追うんだ。そして直接我のところまで連れて来い」

「はっ!」


 皇帝直々の命が下され、エスヴェテレス帝国騎士団が動き始めた。

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