142.まさかの協力者
カツン、コツンと靴音を高く響かせながら、三人の目の前に現れたのはロサヴェン……ではなく、また別の男だった。
赤い髪の毛でややゴツい体型の持ち主で、ヴィルトディン王国騎士団の制服を身に纏っている。
その男は牢の中にいる三人に目を向けてから、そばに座っている見張りの騎士団員に声をかけた。
「この三人か? 城下町でいろいろ不審な行動をしていたというのは」
「はい、そうです」
「そうか。ではここから先は俺が引き継ごう」
「えっ? でも……」
困惑する見張りの騎士団員に対し、赤髪の男は押し切り始めた。
「いいから外してくれ。もしこの三人に何かあるようだったら、責任はこの近衛騎士団副長のロイティンが取る」
「わ……わかりました!!」
自分よりもかなり地位の高い人間にそう言われては引き下がらざるを得なかった騎士団員は、駆け足で牢屋を離れていった。
そしてロイティンと名乗った男は、再び牢の中の三人に目を向ける。
「おい、出ろ」
「はっ?」
「あんたたちに手伝って欲しいことがあるんだ。この城の中にいる反逆者を倒すのをな」
だが、端的に説明されても事情がさっぱり飲み込めない三人は顔を見合わせた。
「あのー、もう少し詳しく説明してもらえませんか?」
「そうよ。ここから私たちを出してしまってもいいの?」
「そうですよ。私たちだってまだ話がわからないんです」
しかし、ロイティンは三人がああだこうだと言う間にガチャガチャと鍵を開けてしまった。
「さぁ、出ろ。説明は別の部屋に行ってからする。俺がいれば他の見張りの奴らも手が出せないだろうからな。それからあんたたちは手を出せ。その手枷を取ってやる」
「えっ」
「早くしろ。時間との戦いだぞ」
何が何だかわからないまま、ロイティンに言われるがままに手枷を外してもらった三人は丸腰のままで彼の後ろについて歩く。
ロングバトルアックスを持っていることから、ファルレナと同じ斧使いなのはわかるのだが、その目的が全然見えないまま近くの尋問室に案内された。
さすがに四人も入ると狭さを感じるが、そんなことはどうでもいいとばかりに早速話を始めるロイティン。
「改めて名乗らせてもらう。俺はロイティン・ユイグレス。近衛騎士団で副騎士団長を務めている。あんたたち三人の身元は調べさせてもらった。バーレンのファルレナ副隊長、エスヴェテレスのブラヴァール騎士団員、そして冒険者のルディアで間違いないな?」
「は、はい……」
だが、その副騎士団長がどうして突然こんな真似を?
いったい何の目的があって自分たちを牢屋から出してくれたのか?
「間違いないです。ですが、なぜあなたは私たちを出してくれたのですか? 先ほど協力して欲しいことがあるとおっしゃっていましたが」
「それについてだが、大きな声じゃ言えないからここに呼んだんだ。俺の言っている反逆者たちについてだが、俺たちがあんたのエスヴェテレスに攻め込むために契約したバーサークグラップルという集団のことだ」
「あれっ、あの連中が極悪非道だって知っているんですか?」
ブラヴァールに続いて声を上げたルディアがそう聞いてみると、ロイティンは神妙な表情でうなずいた。
「そうだ。あの連中がこの国を潰すという企みを話しているのを聞いてしまったんだ」
バーサークグラップルが上手く自分たちをそそのかしてエスヴェテレスと戦争に持ち込ませる。
その戦争でヴィルトディンが負けて壊滅してしまおうが、勝って浮かれようがどっちにしても疲弊するのは確かである。
そこでヴィルトディンを裏切った自分たちが、勝って油断している方に攻撃を仕掛けて一気に叩き潰せば、余り労力をかけることなく二つの国を壊滅させられるのだと。
「俺はそれを聞いて、この戦争が罠だと知った。だが周りの連中はあのバーサークグラップルに上手く手懐けられていてな。この事実を知っているのは今のところでは俺だけだ」
そう言うロイティンに、ファルレナは意を決してこのことを聞いてみる。
「それじゃ一つ聞きたいんだけど、もしかして、バーサークグラップルの上にまだ誰かいたりしないかしら? その黒ずくめの極悪集団をも操っている人間が」
「ああ、それはあの魔術剣士のことだな」
「魔術剣士?」
やっとその上の存在が明らかになる時が来た。
三人は固唾を呑んでその人物がどんな人間なのかを、彼の口から出てくるのを待った。
そして……。
「名前はニルス・ベックマン。魔術剣士でかなりの腕前だ。手合わせで俺の上官の将軍ともう一人の将軍を同時に相手にしても負けなかったし、お前の元の仲間たち……勇者パーティーの連中を五人同時に倒した男だ」




