137.地下施設
そうして潜入したルギーレと、こっそり彼の後をつけていたルザロが合流して目的地である地下施設へと入り込むことに成功した。
「うわ……確かにルザロ将軍が言っていた通り大きな場所ですね」
「俺も実際に見るのは初めてなんだが、こうして見てみるとやはり大きいな」
クリストールの住民すべてを入れられる地下施設というだけあって、その広さはクリストールの約二倍とも言われている。
更には治療薬や魔力の回復薬などを貯蔵しておく倉庫だったり、食料を保存しておくことができる部屋も用意されているみたいだ。
壁に掛けられている看板を見る限り、その大きさはとてつもないものだというのがわかる。
壁や床は石でガッチリと固められており、万が一の時の対策はバッチリだ。
さらには魔術で動く冷暖房も完備しており、急激な温度変化にも対応できるようになっているし、毛布や簡易ベッドなどの用意もしっかりしている。
しかし、この二人が探しているのはそんな備品類ではなかった。
「さて……ここから先が問題だな。とりあえずここを探索して大型の魔物を改造した生物兵器を探さなければな」
「そうですね。これだけ広いとどこに置いているのかも検討が付きませんし」
「それだったら俺が案内してやろうか?」
「え……?」
「ん?」
ルザロの声ではない、かといってルギーレの声ではもちろんない。
明らかな第三者の声は彼ら二人の背後から聞こえてきた。
その声が聞こえてきた方向に二人が同時に振り向けば、一人の背が高い黒髪の男が立っている。
服装は……このヴィルトディン王国が誇る騎士団の制服だった。
更にその男は、ルザロがセヴィストの護衛としてついていった会談の場で見たことがある人物でもあったのだ。
「人違いじゃなかったら、なんであんたがここにいるのかをじっくりと聞いてみたいもんだね。ファルス帝国両翼騎士団のルザロ団長さんよぉ?」
「……」
「へっ、だんまりかよ。じゃあこっちの身分からちゃんと紹介してやるぜ。俺はヴィルトディン王国騎士団が誇る双璧の将軍の一人、クラデル・ヴォンクバートだ」
ルギーレとルザロの二人よりも背が高い、クラデルと名乗った将軍。
その名前を聞いてもルザロは何もリアクションをせずに黙ったままのスタンスを貫いていたが、隣にいるルギーレはまた違った。
「クラデル将軍……ああ、クラデル将軍!?」
「そーだよ」
「ああ、あのクラデル将軍か……」
「なんだよ、その微妙なリアクションは。勇者パーティーの一員だったってのはしっかり覚えてるぜ、ルギーレ君よぉ?」
「え!?」
でも俺のことは覚えていないんだろうなあ、とてっきり今までのパターンからそう考えていたルギーレは、まさかのクラデルの口から自分の名前が出てきたことに驚きを隠せなかった。
その心の疑問すら見透かしているらしいクラデルは、さらに口を開いてしゃべり続ける。
「勇者パーティーも以前、このルザロ団長と同じでこの国にやってきたんだよ。目立ってたのは勇者様たちだけだったみたいだが、俺はちゃんとお前のことを覚えてるぜ」
「……あ、なんだか嬉しいです」
「でもよ」
そこでいったん言葉を切ったクラデルは、油断なく自分の持っているハルバードを握って身構えながら質問する。
「お前が勇者パーティーを追い出されたのも知ってんだよ。それで世界のどっかをフラフラしてんのかと思ってたら聖剣を手に入れて、そして今じゃあ泥棒の真似事かよ? 勇者の仲間から外されたってのもわかる気がするぜ」
「あ、いや……あのですね……」
「こっちには勇者様たちがいるんだよ。もしかしてそれも知った上でここに忍び込んだってわけか? もしかして勇者様たちに頭を下げてもう一度仲間に入れてもらおうとしに来たんじゃねえだろうな?」
「だからそれはその……」
自分のことは覚えてくれているようだったので嬉しいルギーレだったが、そのあたりの誤解はきちんと解かなければならない。
勇者様たちとやらにホラを吹きこまれた可能性が高いと考えたルギーレは、それをしっかりと説明するべくクラデルを手で制してセリフを続けようとしたのだが、それよりもクラデルが施設の中にいる騎士団員たちや黒ずくめの集団に大声で指示を出す方が早かった。
「おーい!! 怪しい奴らがここにノコノコ忍び込んできやがった!! こいつらを捕まえろ!!」
「くっ、こいつはまずいですね……」
「仕方がない、なるべく殺さないように戦って切り抜けるぞ!」
こうしてルギーレはレイグラードを構え、ルザロはロングソードを鞘から引き抜いてやむを得ず戦うことになってしまった。




