136.強行突破
「うおおおおおおおっ!!」
レイグラードが振るわれるたび、生み出された衝撃波が襲い掛かってくる騎士団員や黒ずくめの集団をまるで紙吹雪のように吹き飛ばす。
まだ一つだけしか宝玉を手に入れていないのに、まさかこれほどまでの威力だとは。
(あの時……遺跡で槍使いをぶっ飛ばした時よりも確実に威力が上がっている気がするんだよな)
この力があれば、こんな奴らなんて目じゃないぜ。
そう思いながら、まだまだ荒削りの剣術でレイグラードを縦横無尽に振り回しこの地下施設の敵たちをなぎ倒していくルギーレ。
それを横目で見ながら、ルザロも自分に向かってくる敵を的確な剣術で倒していく。
(これが聖剣レイグラードの力……)
ただただ驚くばかりである。
ひと薙ぎするたびに敵が吹き飛び、衝撃波が遠くまで斬撃となってダメージを残していく。
自分もシャラードも大勢の敵を相手に戦ったことはあるものの、一人だけで戦っていてここまで一方的な展開は今まで見たことがなかった。
歴史書の中だけでしか見たことがなかったレイグラードの力というものが、まさに今こうして目の前で展開されているだけでもルザロにとっては感動ものだった。
しかし、敵もかなりの大勢である。
なにせここは、そのレイグラードでもかなりきついぐらいの人数が駐在している敵の本拠地だったからだ。
事の起こりは、ルギーレがルザロからある事を思い出したと言われてそれに従って行動し始めた時からだった。
「地下施設?」
「ああ。以前、俺たちファルスとヴィルトディンで会談があったんだ。俺はセヴィスト陛下の護衛として一緒に行ったんだが、陛下の後ろで控えていた時にヴィルトディンのリルザ陛下から聞こえてきたのが、現在王都の地下に大きな施設を造っているとのことだったんだ」
その話を聞いたのがずいぶん前のことだったのだが、話を聞く限りでは雨の日でも雪の日でも天気を気にせずに屋外での訓練ができるように、騎士団の施設を造るのだった。
しかも利用目的はそれだけにとどまらず、もし有事になった時にはこの王都クリストールに住んでいる住民たちを地下に避難させて被害を最小限に抑えることもできるという。
「なるほど……それだけ広いんだったら、確かにあの密偵からの報告通りの大型兵器もたくさん隠しておけそうですね」
「ああ。だからその地下施設を調べてみようと思っている。エスヴェテレスに攻め込むのであれば、不用意に表に出しておいて余計なトラブルを起こさないようにしているのかもしれないからな」
嫌でも目立ってしまうそんな大型兵器を隠しておくのと、すぐにでも出撃できるようにするのであれば、戦争の最終決定権を握っているリルザからの命令がすぐに伝えられるクリストールのどこかにその噂の兵器を造っている場所があるかもしれない。
国は違えど、ルザロだって騎士団のトップに立つ将軍なので軍人としての目線でそう考えてみたのだ。
だが、ルギーレはそれ以外のことも気になっていた。
「しかし……勇者たちはここにいるんですかね?」
「いる可能性は高いだろうな。黒ずくめの連中とともに戦争に参加するのであれば、勇者たちもその実力を見せるために戦場に送られる可能性があるだろう」
もしかしたらその地下施設で出撃を待っているかもしれない。
だが、地下施設があるのはわかってもそこにどうやって向かうのかはこれから決めなければならない。
「ルザロ将軍はこのヴィルトディンでも顔が知られているんですよね?」
「まあ……陛下の護衛としてこの国に来たこともあったし、その時に陛下のそばについていたから知っている者もいるだろう。今は騎士団の制服を着ていないから何とかバレていないだけかもしれない」
それでも、むやみに地下施設のことを聞いてしまえば自分たちの存在がこちらの騎士団に露呈することになってしまうだろう。
それを避けるには、ルギーレがこの作戦のポイントだとルザロは考える。
「そこでお前の出番だ、ルギーレ」
「え、俺ですか?」
「ああ。お前は名実ともに傭兵だからな。傭兵としての依頼で、地下施設に向かってほしいと言われたとうまく誘導してくれ」
今のところで考えられる作戦はそれぐらいしかない。
騎士団のことは騎士団の人間に聞かなければわからないので、ここは傭兵のルギーレが活躍する時が来たのだ。
まずはなるべく王都の中心部から離れた場所で警備をしている騎士団員のもとへと向かい、傭兵として地下施設の警備に加わってくれと言われた、と勝負に出るルギーレ。
「地下施設の警備かい?」
「そうなんです。傭兵募集の場所に行ったらそこを紹介されたんですよ」
「えー、そんな仕事あったっけ……?」
「それがですね、俺……黒ずくめの人たちと知り合いだからそいつらから傭兵募集の場所に行ってくれって言われて、警備のためにこんなメモも渡されたんですよ」
そこにはルザロの字で書かれたメモが。
もちろんこんなのは偽造でしかないのだが、集合時間に少し遅れてしまったのでさっさとそこに案内してくれ、と彼は強引に押し切ったのだった。




