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133.本当の敵

「私たちをお呼びでしょうか?」

「ああどうも。忙しいのに悪いね。ちょっと気になることができたんだけど話を聞いてほしいんだ」

「気になることですか? 俺たち二人とも呼び出すってのは、相当重要なことなんですか?」

「そうなるかもしれないね。ええと、実はね……」


 その人物は、今の自分が感じている妙な人物たちの特定を急いでやってほしいと二人に願い出る。

 それを聞き、二人の将軍のうち背の高い男が驚きの表情になる。


「すげえっすね……あんたはそんなこともわかっちまうんですか?」

「うん。だって私は魔術剣士だけど、魔術の方が得意なんだよ」

「何をおっしゃいますか。私たちを二人同時に相手しても引けを取らないほどの剣術の腕をお持ちではありませんか」


 それ以外にも、勇者パーティーの面々を五人全員同時に相手にして三人を戦闘不能に追い込み、残る二人にも白旗を上げさせたその実力は底知れないこの人物。

 だが、目の前の将軍たちはそれ以上この人間について知らないのだ。

 突然どこからともなく現れたかと思うと、最初は黒ずくめの連中に協力する形で加入したのだという。

 こんなに怪しい人間を自分たちの仲間にしていいのかと思っていたウィタカーたちだったが、一度その実力を見せつけられてしまうとそれまでのムードとは打って変わって大歓迎になった。


「話はウィタカーさんたちから聞いています。このヴィルトディンだけでも大型の魔物を三十匹、たった一人で討伐されたと」

「俺たちの耳にも入ってきてますよ。力だけじゃなくて、騎士団員たちの病院に現れてその魔術でほとんどの患者を治しちまったって!」

「そうだね。でも、魔術にも限度があるから治せない病気とかはあったはず。だからそれについてはごめんね」

「とんでもないですよ! おかげで俺たちヴィルトディン王国騎士団は、あなたに弟子入りしたいとかあなたと結婚したいって人間でわんさか溢れているんですから!」

「そうなの? でも、私は弟子は取らない主義だし結婚もまだする予定はないから、どちらも丁重にお断りさせてもらうよ」


 謙遜しつつ、断るべきところはハッキリ断るメリハリもなかなかの人物だと二人の将軍は満足そうにうなずいた。

 そして改めて、その人物から任された任務に繰り出そうとする二人だが、今この王都にそんな怪しい行動をする人間たちがいるのであればハッキリ言ってエスヴェテレス侵攻に支障が出ないうちに捕まえるべきだと考えている。


「それでは行ってまいります」

「ああ、気を付けてね。何が起こるかわからないんだからさ」

「わかってますって! よっしゃ、行くぞ!」


 二人の将軍が部屋を出て、その足音が徐々に遠ざかっていく。

 それを聞きながら、再び書類に向かって羽根ペンを動かし始めたその人物は口元に笑みを浮かべてつぶやき始めた。


「そう……本当にこの世の中、何が起こるかわからないよねえ?」


 黒ずくめの連中が世界征服を狙っているという情報を手に入れた時、これは願ってもないチャンスだと空から声が聞こえた。

 そしてその連中に協力して、目指すは世界征服である。

 だけどさすがにその世界征服は自分一人では無理なので、こうして黒ずくめの連中の仲間になることによって効率よく進めようという魂胆が見え隠れしていた。


「でもさぁ、あの黒ずくめの奴らもこの王国騎士団もよくやってくれているよ。まさか自分たちが最終的に全員殺されることになるとも知らずにねえ……?」


 それこそが自分の最終的な目標であり、なさねばならないことである。

 マリユスとかいうあの勇者も同じことを考えているようだが、その勇者たちだって自分が最後に手にかけて殺すつもりなのだ。

 それも知らずに浮かれているというのだから、本当にバカな勇者たちだと笑いが止まらない。

 だが、その計画を最後まで進めるために注意しなければならない存在がある。


(聖剣レイグラード……私はそれだけが気がかりなんだよ。


 この世界の戦場という戦場で活躍して、現在ではその勇者パーティーを追い出されたという男が持っていると報告があった伝説の聖剣。

 噂によれば人間が創り出した物ではないとされているが、それだけに人間である自分にとっては脅威となる可能性があった。


(人間じゃない何者かが創り出す剣……そしてそれを扱うことができるのは、その時代で選ばれた人間ただ一人……か)


 それ以外の人間が扱っても真価を発揮できない。

 だが、聖剣が不完全な今だったらその使い手もろとも一気に叩き潰すことができる可能性は高い。


「そしてその聖剣と思わしき気配が、この王都の中からヒシヒシと伝わってくるんだよねえ。どうやってこの中に入ったかは知らないけど、もし私たちの邪魔をするつもりだったらここで存在を抹消してやるよ」


 そう呟きながら、城の窓の外に見える景色に向かって羽根ペンの先端を向けて、指を使ってペンをへし折ったのだった。

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