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132.昂る気持ちを抑えつつ、まずは目の前のこと

 エルヴェダーという名前の貿易商を訪ねれば、そこで話が聞けるかもしれない。

 そう言い残したセルフォンとの通信が終了したわけだが、タイミングのいいことにここにはエスヴェテレス騎士団の人間が一緒にいるのである。

 そのブラヴァールへの視線が四人分、一気に集中する。


「確かブラヴァールさんって、貴族出身の方でしたよね? 何かご存じありませんか?」

「エルヴェダー様……ああ、そういえば聞いたことはあります。陽気で屈託のない性格で若いながらもその貿易の幅を広げている貿易商がいると」

「そうなんだ。じゃあその人に会えば何かわかるかもね」


 しかしその話も今は一旦置いておき、ヴィルトディン内部で起こっている問題を解決しなければ先へ進めない。

 五人は自分の装備品の手入れや各方面への連絡をしたりしながら時間を潰して、上陸してからは馬を乗り換えて合計で十五時間をかけ、王都のクリストールへと辿り着いた。

 朝早くに船に乗ったはずなのに、気がつけばすっかり夜を迎えていた。


「さて、ここからが問題ね。クリストール周辺は向こうも厳戒態勢を敷いているから、正面からの突破は無理よ」


 だからこそこのルートが活躍するのよ、とファルレナは自分の潜入ルートを教える。

 それはクリストールの城壁を使った抜け道だった。

 以前、ルギーレはレイグラードで強化された腕力で石の壁を叩き壊したことがあったが、今回は潜入のためにあの時みたいに大きな音を立てるわけにもいかない。

 しかし、まさかこんな壁があるなんて思いもしていなかった。


「どうやってこれを見つけたんですか?」

「これは酒場の人から上手く聞き出したのよ。外に出入りするのも大変ですねえって言ったら、じゃあ抜け道使いなよって言われたんだよね」

(情報漏洩にも程があるな……)


 ルディアの質問に答えるファルレナを見て、この国のセキュリティはいいんだか悪いんだかわからないなとルザロは冷や汗を流した。

 この抜け道は王族を中心とした身分の高い人間を優先に使える場所なのだが、抜け道だけあってわざわざ見張りを立たせておくわけにもいかない。

 そこをファルレナは突いたのである。


「確かにそうですね。見張りを立ててしまえば抜け道の存在が知られて意味がなくなってしまいますからね。しかし、部外者にそんな簡単に抜け道の話をするというのは他人事ながら危機感がなさすぎだと思いますね」

「俺もそれは同感だな」


 話を聞いていたブラヴァールとルザロがお互いに頷き合うが、その情報を聞き出したのが酔っ払いの騎士団員だったというのが大きなポイントだったらしい。


「それなんだけど、騎士団員の人たちは鬱憤が溜まっているらしいのよ。確かに協力してくれていろいろな兵器を作ってくれて、人員も増やしてくれるってことで黒ずくめの連中に感謝している騎士団員も多いんだけど、いきなり話に入ってきてああだこうだやり始められて気分が良くないって愚痴をこぼしている騎士団員もいるのよ」

「組織は必ずしも全く同じ考えを持っている人間ばかりではない、というですね」


 自分も勇者パーティーを追い出された爪弾き者だから、その気持ちはなんだかわかるとルギーレが頷く。

 とにもかくにも、こうしてクリストール内部へと潜入に成功した一行だったが、問題はここからである。

 ファルレナとロラバートが手に入れた情報がきちんと正しいかどうかを確かめなければならないのだ。


「私たちエスヴェテレスがヴィルトディンに対して侵攻しようとしているなどと、事実無根の噂を流されてしまっている以上はそれが違うと証明しなければいけません」

「それに黒ずくめの連中よりもさらに上の連中がいるってなると、改造生物兵器の存在と一緒にその正体も確かめなきゃね」

「よし、だったらまたグループを二つに分けよう。俺とルギーレで改造生物兵器と黒ずくめの上の連中を調べる。残りの三人は誰がエスヴェテレスの噂を流したのかを確かめてくれ」


 ルザロの采配によって動き出した一行は、それぞれまずはどこを中心に話を聞くかを相談する。

 その結果、ルディアたちが向かったのは例の抜け道の話を聞いた酒場であった。

 一方のルギーレたちは、騎士団に武器や防具を下ろしているという装備屋へと向かう。

 こうして少しずつヴィルトディンで何が起きているのかを探り始めた一行だったが、そんな五人の動きをキャッチした人物がこのクリストールの中にいた。


「んー? 誰かが何か怪しい動きをしているみたいだねえ」


 羽根ペンを走らせていた手を止め、クリストールの空気が変わったのを敏感に肌で感じ取ったその人間は、ペンを置いてそばのコップに入っている水を一気に飲み干した。


「なんだか嫌な予感がするね。これは騎士団の人たちに動いてもらおうかな」


 窓の外を見てそう呟いた人間は、この国が誇る最強の将軍たちを呼び出した。

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