130.潜入成功
「やっと来られたって感じだな」
「ええ。来ようと思ったら何かしらのトラブルに巻き込まれていたからね」
ルギーレもルディアも、二人そろって同じように安堵の息を吐く。
今度こそ、ようやく何事もなくヴィルトディンにまでたどり着くことができた。
二度あることは三度あるというものの、今回の場合は三度目の正直が勝ったらしく列車が無事に国境付近の町にまでたどり着いた時には、二人で歓喜の雄叫びを上げたものだった。
「さて、馬を用意してもらっているから行きましょう。えーっと騎士団のお二人は問題ないとして、そっちの二人は馬には乗れる?」
「はい、俺は勇者パーティーで移動する時も大体は馬でしたから大丈夫です」
「私は趣味で乗馬もやっていたことがあったので大丈夫ですね」
「なら良いわね。密偵として入り込んだ時に聞いたんだけど、今はエスヴェテレスとの緊張が最大級にまで達しているから国境もいつもと違って数倍の警戒態勢を敷いているらしいの」
それを聞き、エスヴェテレスからやってきたブラヴァールが右手を挙げてファルレナに質問する。
「一ついいですかな。うちのロラバートから預かってきたこの侵入ルートで今こうして進んでいるわけですが、もしここから入れなかったらどうするつもりですか?」
「大丈夫。私の方も三つぐらいルートを考えてきたから。脱出ルートとしても使えるものだからね」
「よし、では今のルートのままでまず案内を頼む」
そのルザロの一言で、結局は今進んでいるルートでヴィルトディンに潜入を果たした五人。
騎士団の三人は各々の主君に連絡を入れ、任務を続行することを伝える。
一方、ルギーレとルディアはこのヴィルトディンがどんな国だったのかをおさらいしておく。
「ルディアは来たことあるんだっけ?」
「三回ぐらいかな。ルギーレは勇者たちと来たことあるんでしょ?」
「ああ。自然が多くて、森と川で自給自足ののんびりした生活を送るんだったら最高の国だと思ったね」
もしレイグラードに出会わず、追い出されてこのヴィルトディンまでやってきていたら、きっと今頃はのんびりとスローライフを楽しんでいたかもしれない。
ルギーレがそう言うように、軍事よりも農業・畜産の盛んな国がこのヴィルトディンであり、農産物の輸出や輸入が主な国の財源となっている。
世界地図で言えば北に位置しているので、厳しい冬が見舞う土地でもある。当然ながら夏が遅いので、夏場の避暑地として国外の貴族が別荘を持っていることも多い。
その冬を越してしまえば今度は穏やかで安定した気候となるので、それが農作物を栽培するのに適した土地なのだ。
「いいわね~。のんびり農作業して、畑を耕してお米とか野菜を作って、それを自分で食べて過ごすって」
「ああ、ルディアは軟禁されていたんだったな」
「そうなのよ。だからこういう開放的な土地は憧れるわ」
そんなヴィルトディンは、もともとはエスヴェテレスとは対立している訳では無い。
だが、その隣国が軍事力を近年増大させていることに不安があったので、最近では少しずつではあるものの軍事関係にも力を入れ始めている。
「私たちエスヴェテレス帝国側から見ると、まるでこちらからの侵入者を防ぐ様に森と山脈と渓谷があり、その奥の川の奥に王都が存在しているんです」
「そうなんですよね。だったらロラバートさんも大変だったんじゃないですか? 密偵として潜入するのは」
「いえ、彼はもっと北から……海を渡るルートで潜入したんですよ」
それを聞いたファルレナがハッとした表情を見せる。
「海! ……ああ~、そうか海かぁ……そういえばその手があったわね」
「なんだ、思いつかなかったのか?」
「ええ。だってこっち側は南の方しか海に面していないからね。海からだったらすごい遠回りになるし、今回みたいに緊張が高まっているんだったらさっさと陸地で行かなければならなかったわ」
意外そうな表情で尋ねるルザロに、ファルレナは地理の面で無理だったと返答する。
考えてみればファルスも同じ条件がそろっているので、自分が密偵として向かうのであればエスヴェテレスかバーレンを経由して向かうだろうと述べる。
「さて、それじゃ私たちもそれぞれの騎士団の制服は脱いできたんだし、ここから先は傭兵パーティーとして過ごすわよ」
「わかりました。それで、私たちはまず王都に向かうんですか?」
「そうね。今、ブラヴァールさんから聞いたことでヒントを得たわ。王都のクリストールもさっき彼が言った通り北にあるんだったら、船を使いましょう」
その方が、陸地を進むよりかは安全だわ。
しかし、そういうファルレナにルザロが反対意見を述べる。
「いや、ちょっと待て。ここは陸地を突っ切るべきだと思う。船は時間がかかるし、奴らが海竜を模した兵器まで開発していたんだから海のルートだって見張られているかもしれないだろう」
「うーん……」
そう言われるとファルレナも迷ってしまう。
結局五人は人数の関係もあり、どちらのルートにするかを多数決で決めることにした。




