123.脱線
「なっ、何だぁ!?」
「うおああああっ!?」
急ブレーキでガクンと前方に揺さぶられる身体。それからすぐに横に車両が傾く感覚を味わう乗客たちは、なすすべもなく列車とともに横倒しになって地面を滑っていく。
先頭車両から離れた場所に乗っているルギーレたちだったが、一度横倒しになってしまった列車はスピードが摩擦で完全に落ちるまでどうにもならずにそのままあちらこちらに身体をぶつけていた。
そして気が付いた時には、何がどうなったのかわからないながらも最初に意識を取り戻したルディアが周囲の状況を確認する。
「あっててて……何? 何なの……!?」
車内はまさに地獄絵図になっていた。
あのワイバーンが襲撃してきた時と同じくらいに乗客たちが横倒しになった列車の中で倒れており、窓ガラスが割れてそこに突き刺さってしまった者、座席に身体をぶつけてピクリとも動かない者、うめき声をあげながら身体を起こすものなど様々だった。
そして上の方からのみ外の光が差し込んできているので、その光を頼りにして何とか自分にまずは回復魔術をかけ、ルギーレたちがどうなったか確認する。
「ちょっ……ちょっとルギーレ! リアンさん! ラシェンさん! アイリーナさんにジェクトさん! 皆さんどこ!?」
「うっ、あったたたた……」
「あ、ルギーレ!!」
「何だよ、何が起こったんだ……!?」
「どうやら列車が脱線しちゃったらしいの。とにかくまずは周りの人たちを助けましょう! ルギーレの怪我は?」
「くそ……左足をくじいたみたいだぜ。それから右腕も変にぶつけていてえ」
「わかったわ!」
まずはそのルギーレを含めたこの列車に乗っているはずの乗客全員に向けて、範囲を指定して回復魔術を発動するルディア。
しかしその範囲が広すぎるため、この一両分すべての乗客を回復するので精いっぱいだったうえに、すでに事切れてしまった乗客もいるのが悔やまれる。
それでもその回復魔術によって回復に成功した乗客たちは、これ以上の二次災害を防ぐためにまずは急いで列車の外に出る。
リアン、ラシェン、アイリーナ、ジェクトの四人もなんとか無事だったが、急いでやらなければならないことがある。
「まずは駅に連絡しましょう! 他の列車を止めないと突っ込んでくるわ!」
「ならそれはお前に任せるぞ、アイリーナ。俺たちは全員で残っている他の車両の乗客を助けよう。急ぐぞ!」
「わかりました!」
そう、今この線路の上には他の列車も走っているので、アイリーナのいう通り突っ込まれでもしたらシャレにならない。
動けるほかの乗客たちも救助活動を手伝い始め、それとともにアイリーナは近くの町や村にも救援要請を出す。
また、ネルディアにももちろん連絡を入れてまた列車の事故が発生したと伝えたのだが、その原因は列車の後部に向かってみると判明した。
「え……!?」
「せ、線路が壊されてる!?」
確認しに行ったリアンとラシェンは言葉を失ってしまう。
線路が老朽化して外れたり曲がったり、といったことで脱線したのではなく、明らかに何者かによって切断されたのが見て取れるその断面。
これは事故じゃなくて事件だ。しかしいったい誰が?
救護活動を進めるジェクトたちに報告をしに行き、ここから逃げ去った人物がいないかの捜査もお願いする二人。
「昨日まではこんな事件はなかったし、断面も新しいとなると……多分線路の点検が入る真夜中から明け方の空き時間に行われた可能性があるわね」
「いや、ちょっと待てアイリーナ。だったら俺たちが乗っていたこの列車じゃなくて他の列車が先に脱線するはずだ」
「あ……それもそうね」
「え? ってことはもしかして……私たちの乗る列車がピンポイントで狙われたってこと!?」
ルディアが驚くその横で、リアンが顎に手を当ててつぶやいた。
「それかもしくは、たまたま最初に脱線したのがこの列車だったって可能性もありますね」
「とにかくこれは重大な事故だぜ。俺たちも協力するからヴィルトディンに行くのはまた中止だ」
「そうですね。それからこんなことをした犯人も捜さねえと」
線路を切断して列車を脱線させるなんて、まともな人間のやることではない。
とにかく最優先に救護活動を進めた六人は、応援に駆け付けた周辺の町や村の人間たち、それから騎士団員たちとともに五日かかってまずは列車の撤去作業を終わらせた。
「はぁ……ようやく片付いたぜ」
「そうね……でもさ、ヴィルトディンに向かおうとすると何かしらのトラブルに巻き込まれていないかしら?」
「そういえばそうだな」
前回はワイバーンに襲われ、今度は列車の脱線で中止になったヴィルトディン入国。
誰が何の目的でこんなことをしたのかの詳細がいまだにつかめていない以上、バーレンの騎士団にできることは線路の周辺で怪しい人物の目撃情報がないかどうかを確かめるだけだ。
が、その聞き込みによって奇妙な噂が次々とルギーレたちの耳に入ってきた。




