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121.出自のヒント

 その質問に、ルギーレは言葉を失ってしまった。

 そういえばこの旅に出たのはレイグラードの秘密を知るためと、自分が捨て子で発見されたアーエリヴァ帝国に向かう予定だったのをすっかり忘れていた。

 それもこれも、全ては最初にあのアーエリヴァ行きの列車で事件が起こってしまったことから始まっているのだから、こちらに来るのは予想外だったのだ。

 もしあの時、無理してでもアーエリヴァへ行って出自を確かめていたらどうなっていたのだろう?

 そう考えながらも、ルギーレは玉座に座っているシェリスに対して口を開く。


「いや、考えたことないです。俺は物心ついた時からファルス帝国の孤児院で育っていたので。でも……アーエリヴァで拾われたとは言われました」

「アーエリヴァ?」

「はい。ですからアーエリヴァに行けば何かわかるかもしれないですけど……事が落ち着いたらそっちに行ってみようかと」


 そもそもの目的がそっちなので、本当はアーエリヴァに行きたいとの思いを伝えるルギーレだが、現実はそうそうスムーズに進んでくれないらしい。


「それはお前が勝手にすればいいけど、まずはこの問題がちゃんと終わってからな」


 そう言うシェリスは、隣に控えているロナの方を向いて顎で指示を出した。

 心得た様子のある宰相は、両手で抱えたレイグラードをシェリスに渡した。

 ルギーレはそこで初めて、自分がレイグラードを持っていないことに気がついたのである。


(あっ、なんか腰が軽いと思ってたらレイグラードが……)

「へぇ、これが噂のレイグラードね。俺も歴史書でしか聞いたことねえけど、まさか本当にこうしてこの手で握れるなんて思ってもみなかったぜ」


 嬉しそうにレイグラードをしげしげと見るシェリスだが、あの黒ずくめの槍使いとは違い奪い取る気はもちろんなかった。


「わかったよ。とりあえずまだお前たちにはここにいてもらわなきゃならねえ。そっちにいるファルス帝国の二人にもな。黒ずくめの連中の行方も追わなきゃならねえし」


 それで謁見は終了したのだが、だんだんスケールの大きな話になっているのがルギーレもルディアも怖かった。

 勇者パーティーの時にここに来たのとは訳が違うのだから。


「はー、なんだか疲れたぜ」

「だって二日ずっと寝てた状態からの謁見だから、それは疲れるわよ。レイグラードはこのバーレンの人たちがいろいろと解析してくれたんだけど、まだわかんないことはいっぱいあるらしいわ」

「そうか……でもさ、俺が引っ掛かってんのはそれだけじゃねえんだよ」

「え?」

「レイグラードってさ、ルヴィバーが使ってたって伝説の武器じゃん? そのルヴィバーってのもレイグラードの使い手で、確かこのバーレンの西にあるイディリーク帝国を建国したんだろ?」


 だったらそっちに行くのも考えたほうがいいような気がするんだよ、とルギーレが言うが、隣を歩いているルディアよりも先に反応したのが後ろを歩いているラシェンだった。


「いや、そいつはやめておいた方がいいぜ」

「えっ、なんでです?」

「だってよぉ、イディリークの連中にとってルヴィバーっていやぁそれこそ神様みたいな扱いだからな。下手にレイグラードの話題なんか出したら国宝の問題ってことで拷問されちまうかもしれねえ」

「私もラシェンとは同じ考えですね。レイグラードはイディリークが欲しがっている物ですから、今の状態で向かうのはかなり危険です」


 リアンにもそう言われたルギーレはイディリークへ向かうことを一旦諦めざるを得ないと悟ったが、そこで疑問が生じる。


「ん? それじゃあルヴィバーって結局どこに行っちゃったんですかね? 俺が前に聞いたのは、彼が最終的に惨い死に方をしたってだけですけど」

「いやー、それは俺たちもわかんねえな。ルヴィバーはイディリークを建てたはいいけど、冒険家の熱が醒めることはなかったらしくて、結局また冒険に出たって話しか知らねえもん」

「私たちとは随分と時代が離れた過去の人間ですからね。書かれている冒険の書物から読み解く限りではかなり精力的に行動されていた方だとお見受けしますが、そのルヴィバーの最期を看取った人間の記述が書かれていないんですよ」

「書かれていない……じゃあ、死に様は見届けたけど場所は書かなかったってことですよね……?」


 ルディアも疑問を持ってしまうのは当然だろう。

 普通はその死んだ場所もわかるはずなのに、死んだ光景だけが記載されているのは妙な話だ。

 意図的に記載しなかった? それは何のために?

 考えれば考えるほどわからなくなる。


「だから今、イディリークの帝都にルヴィバーの墓があるんだ。それから銅像もあるんだが、肝心の遺体を収めているはずの棺桶の中身が空っぽなのさ」

「そしてルヴィバーの使っていたレイグラードも、イディリークの人間たちが血眼になって探しているんです。そんなレイグラードをあなたが持っていることがわかれば、イディリークの人間たちは絶対にそれを手に入れようとする。それこそ、あなたを殺してでも奪い取ろうとするかもしれません」

「ちょ……ちょっとそれってかなりヤバい状況じゃないですか? だって俺、もう三カ国でそのことが知られちゃってるんですけど!」


 だとしたらかなり気を使う旅になりそうだ。

 レイグラードが自分を使い手として選んだ以上は、きっと狙われる可能性がこれから先も高いままだし、あの黒ずくめの連中がどう出てくるかにもよる。

 とりあえず、今はバーレンに留まってこれから先でヴィルトディンに向かうのが一番いいだろうと考えるルギーレは、翌日ルディアとともに改めてヴィルトディン行きの列車に乗るのだった。

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