117.待ち受ける数々のトラップ(その3)
「さっきから聞こえてた水の音の正体はこれだったんだな」
タイルのパズルを解いた三人が次の部屋に進むと、ザアザアと流れる滝が両側にある部屋に出た。
今しがた通ってきたタイルパズルの部屋と同じく、部屋の奥には奥に続く扉があるのだが、問題はその手前の状態である。
「でも……これだと渡れませんね」
「人間が飛べるような距離でもねえしなあ。だとしたらまた何かの謎解きなんじゃねえの?」
奥の扉に続く地面と、今の三人がいる地面の間にはその両側から流れ込む滝の水で造られた川がある。
水の水位は一定以上たまらないようになっているらしいのだが、かと言って水の底が見えないので水深が低いわけでもないようだ。
落ちたら流されて溺れ死んでしまうのは分かったが、他に通れそうな道もないのでこの川を飛び越えていくしかないらしい。
「今回もどこかに仕掛けがあるんじゃないですか?」
「そうかもしれねえな。ちょっといろいろと探してみようぜ」
まずは足元に注意しながら、近くに何かこの川を渡るためのヒントとなるものがないかを捜索する三人。
するとまず、カリフォンが壁の一部にはめ込まれているレバーを発見した。
現在は下りた状態になっており、上げられるようになっているみたいだが……。
「ん~? おい、なんかレバーがあるぜ?」
「本当ですね。操作してみましょうか?」
「そうですね。俺もリアン団長と同じ考えです」
念のために出入り口付近まで下がったリアンとルギーレを確認してから、カリフォンがレバーをガコンと音を立てて上げる。
するとそのレバー側から流れ込んできていた滝の水量が見る見るうちに弱まっていき、サラサラと流れる小川レベルになったではないか。
しかし、これではまだ向こう岸に渡れそうにないのでどうしたものかと考えていると、今度は川の水位がどんどん下がっていく。
「お、これは渡れそうじゃねえか?」
「いえ……まだ駄目ですね。こちら側の滝も止めなくてはなりませんが、レバーはそちらの一つだけのようです」
「はぁ? それじゃダメじゃねえかよ。一体どうしたら……」
「あっ、カリフォン隊長、リアン団長!! ここを通ってどこかに行くんじゃないですか?」
カリフォンの言葉をさえぎってルギーレが指示したのは、今しがたまで流れ込み続けていた滝の裏から現れた細長い通路だった。
その通路の先には縄ハシゴがつるされており、この洞窟を行き来できるように設置されていると見ていいだろう。
カリフォンを先頭にその通路へと入った三人がハシゴを上ってみると、そこはまたもや殺風景な四角い小部屋だった。
だが先ほどのタイルの部屋と違うのは部屋の中に一本の柱があり、その柱からは二本の木の杭が真横に飛び出ている。
それを見た瞬間、今度はルギーレが閃いた。
「あ……これって多分回すんですよ!! 回して何かを動かすんです!」
「あー、なるほどな。水車と同じか」
「ええ。あれも真ん中に柱があって水の力で回りますから、水の代わりに俺たちで回してみるときっと何かが起こるかもしれないですよ!」
ルギーレの言葉に従い、カリフォンとリアンが一本ずつ杭を押してぐるぐると柱の周りを回る。
すると先ほどまで自分たちがいた川の部屋の方から、ゴゴゴゴ……と地響きが聞こえてきた。
「な、なんだぁ?」
「仕掛けが動いたかもしれないですね。俺、ちょっと見てきますよ!」
「待ってくれ、俺も行くぞ」
「私も……あっ!?」
杭を押して柱を回していた二人がその場を離れてしまえば、当然またゴゴゴゴ……と音がして仕掛けが元に戻ってしまったらしい。
これでは話が先に進まないので、ルギーレは二人にそのまま柱を回していてくれるようにお願いをして、自分だけ部屋に戻って様子を確認する。
すると、そこでは川の底からいびつに地面がせりあがって道を作っていたのだった。
「よし、これなら渡れるけど……あれ?」
さっきまで開いていなかったはずの奥にある扉まで開いている。
もしかしたら、あの柱の仕掛けを動かすと一緒に開く仕組みなのだろうか?
とにかく道は作れたので、ルギーレは縄ハシゴの下まで戻って上で柱を回している二人に声をかけて自分が扉の奥に向かうと報告する。
「三十秒で渡りますから、それまで回し続けてください! お願いします!!」
その秒数で道を渡り切ったルギーレは、後ろの道が沈んで再び川になったことを確認。
これは協力者がいないと渡れないトラップになっているらしいので、仲間ってやっぱり大切なものだと改めて実感する。
そして川まで戻ってきた騎士団員二人に声をかけ、ルギーレは自分一人で奥の扉の向こう側へと進んでいく。
これでようやくトラップの連続も終わりなのかと思いきや、予想だにしない人生のトラップが彼を待ち構えているのだった。




