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113.ヴィルトディンにはまだ行けない

「ラシェンさん、ロオンさん、負傷者と犠牲者の運び出しが終了したそうです」

「わかった。それじゃ俺とロオンで後は処理しておくから、お前はさっき教えた詰め所に行って今日はもう休め」

「わかりました」


 ワイバーンを撃破した三人を乗せた列車は、一番近くの町に設置された駅に緊急停止し、その日の残りの列車運行はすべてなしになってしまった。

 それもこれも、すべては飛来したワイバーンのせいであるのは間違いないのであるが、一体どこからこのワイバーンが飛んできたのかをまず調べないといけない。

 ファルス帝国本部と、ルギーレたちと一緒に遺跡に向かったリアンへの連絡はラシェンがしてくれるというので、自分はその町の騎士団の詰め所に用意された即席の宿泊部屋で一夜を過ごすことになった。

 そこで誰にも聞かれていないことを確認し、自分はエスヴェテレスに連絡を入れておく。


「……というわけでして」

『そうか、ワイバーンがな。俺たちの方でも独自に動いてみよう。そのヴィルトディンでシャラード隊長が出会ったという黒ずくめの集団も含めて、いろいろな事情があるかもしれないからな』


 今回報告の連絡に出てくれたのは、エスヴェテレスで出会った騎士団員の中でも特に無口な性格の赤毛のロラバートであった。

 彼は得意分野が潜入や諜報活動、それから暗殺というだけあってこうした隠密行動を必要とする仕事にはもってこいの人材である。

 その後に掛かってきたロラバートからの折り返しの連絡によれば、ディレーディやザドールからの許可も下りたので正式に極秘捜査を引き受けてくれるらしい。


(これでアプローチの手段は増えたわけだけど……ルギーレと一緒に追いかけたあの酒場のマスターといい、今回のワイバーンの襲撃といいあの黒ずくめの連中の侵略が、どうやらこのバーレンにもじわじわと来ているみたいね)


 あのワイバーンは口の中から弾丸を発射できるようになっていた。

 当然、野生のワイバーンの口の中にあんな砲口は見当たらない。となればやはりあのワイバーンは黒ずくめの連中の手によって改造をされたと考えるので一番しっくりくる。

 しかし、しっくり来ないこともルディアの中にあった。


(こう言っちゃなんだけど……あんな高度なワイバーンの改造生物とか小型爆弾とか、さかのぼってみれば最初にこの国に来た時の魔術兵器とかって、あの黒ずくめの連中に生み出せるようなものじゃないわよね?)


 いや、もしかしたら自分が知らないだけであの連中は恐ろしいほどの技術力や魔術力を持っているのかもしれない。

 でも、なんとなく……今は女のカンでしかないのだが、あの黒ずくめの連中にあれだけの芸当ができるとは思えないルディア。


(これは調査結果を待つしかなさそうね)


 今日は列車の中で絶命してしまった乗客や係員たちの運び出しを手伝ったり、負傷した人間の治療で魔力を多く消費してしまったことから体力的に限界が近づいてきており、ルディアはそのまますぐに眠ってしまった。



 ◇



 その頃、遠く離れたヘルヴァナールのどこかでは黒ずくめの集団「血塗れの狂戦士バーサークグラップル」のリーダーであるウィタカー・エルローフォンの姿があった。

 彼は自分の雇い主に呼び出され、緊張した面持ちで直立不動の状態になっている。

 そんな彼に対して、椅子に座った雇い主は目の前の書類にサラサラと羽根ペンを滑らせながら口を開いた。


「……それで、そのプロトタイプとの通信が途切れたと?」

「はい。実験としては上々の出来でしたが、いかんせん耐久力が低すぎたとみられます」

「へえ……そう。そりゃあちょっとこっちでも周知しておかなきゃね」


 男はウィタカーの報告に、何やら面白そうに笑みを浮かべながらそれも書類に書き込む。

 まだこれは実験段階なのだ。


「わかったよ。それじゃ技術開発部にちゃんと言っておくから。もっと丈夫なの造れって」

「かしこまりました」

「まー、それはそれでいいとしてあの勇者さんたちはどうなの? ちゃんと仕事してくれてんの?」

「はい、今のところはこちらが与えた仕事をこなしてくれてます。実力のほども兵士たちを相手に模擬戦をさせましたが、やはり勇者というだけあって並みの兵士たちでは相手になりませんでした」

「そうじゃなきゃ困るね。私たちとしても高い金を出して仲間に引き入れたんだしさ」


 とりあえず、まずは次の計画を進行しなければならない。

 エスヴェテレスにもファルスにも警告を与えたわけだし、今度はバーレンに警告を与えている真っ最中だ。

 そしてこの警告が他国にも知れ渡れば、それだけで各国が守りを固めてくるだろうが、それでこそやりがいがあるというものだ。

 やるべきことはこれから山積みである。全てはまだ、始まったばかりに過ぎない。

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