112.反撃
「お手上げだ、くそーっ!!」
戦闘のプロであるはずの騎士団員なのに、一方的に打ちのめされるだけで何もできない無力感にラシェンとロオンが打ちひしがれていたその瞬間、列車の内部から中型のエネルギーボールがワイバーンに向かって猛スピードで一直線で飛んでいくのが目に見えた。
『グギャウウウウっ!?』
「……え?」
「あっ、ワイバーンに当たりました……」
いったい誰があんな魔術を?
いや、この列車に乗っている人間の中であんな芸当ができるのは一人しかいない。
すぐにその人物の正体に二人が気が付いたのだが、その間にも再びワイバーンに向かってルディアの融合エネルギーボールが発射される。
しかもよく見てみると、多少ワイバーンに向かう軌道がずれていたとしても空中で方向が変わって、確実に当たるようになっているではないか。
それを見たロオンが、無意識のうちにつぶやいていた。
「追尾……」
「ホーミング?」
「はい。攻撃魔術は確実に敵に当たるものではありませんからね。なので確実に敵に当てるためにホーミングという敵を追尾する補助魔術があるのですが、これはその補助魔術の中でもかなりの高等魔術なんですよ」
それをあの若さで使いこなせるなんて、と改めてロオンは自分とルディアの違いに舌を巻いていた。
ワイバーンの方はホーミングで何度も確実に魔術を当ててくることを嫌がり、翼を動かして動き回って何とかその攻撃から逃れようとするが、ホーミングの魔術はその動きさえも正確に捉えて逃げることを許してくれなかった。
『ギャウ、ガウァ!? ……グゥアアアアアアアアアッ!!』
とうとう怒りが爆発した。
こうなったら多少ダメージを食らっても、あの目障りな人間を列車ごと押しつぶしてやる。
ワイバーンは空中で大きく旋回してスピードを乗せ、一気に列車の側面に向かって体当たりを仕掛けてきた。
その迫りくる巨体を見て、車内にいるルディアは大声で叫んだ。
「皆さん、今すぐ隣の車両へ移って!!」
それしか回避できる方法がない。この車両にあの大きなサイズで体当たりされてしまったら、いくら魔術防壁を展開しても横転させられて終わりだ。
ならばせめて被害を減らすために、ルディアは他の乗客や係員を避難させて自分が囮になる作戦である。
最悪の場合は相打ちも覚悟し、今までにないレベルのエネルギーボールを両手に展開する。
「さぁ……来なさいよこのバケモノ!!」
身構えて覚悟を決めるルディア。突撃して一気に決めようとするワイバーン。
両者の覚悟がぶつかり合う……かと思われたその瞬間、ワイバーンの側面から巨大な何かがぶつかってきて事態は急変した。
「……へ?」
「お、おい……あれって!?」
「ドラゴン……ですよね?」
ワイバーンに意識を集中させていた三人は、その存在に今の今まで全く気付かなかった。
視界に急に飛び込んできたのは、透き通るような空の青さをその身体の色で表現した青い大きなドラゴンだったからだ。
突然の乱入者に人間たちはもとより、ワイバーンも体当たりを食らって軌道を変えさせられ吹っ飛ぶしかなかった。
『グオッ……』
『……』
青いドラゴンはその体当たりでワイバーンを地面へと叩きつけたかと思えば、そのまま身をひるがえして鳴き声を上げながら空へと飛んで行ってしまった。
もしかして助けてくれたのか? とドラゴンに対して目を向ける人間たちだが、ワイバーンが体勢を立て直して起き上がり、再び列車に追い付いてきたことで現実に引き戻される。
(まだ戦いは終わっていないわ! でも、いい加減しつこいわよ!!)
だったらこっちだって一気に終わらせてやる!!
その決意を胸に、ルディアは割られた窓の破片を外へと蹴り出して窓枠で足場を作り、屋根に手をかけて一気に自分の身体を両手だけで引っ張り上げることに成功した。
「あ、ルディアさん!?」
「おい危険だぞ、下がってろ!」
「いいえ、もうここで一気に決めましょう! あのドラゴンの体当たりのおかげで、かなり弱っているみたいですから!」
再びスピードを乗せて体当たりしようとするワイバーンだが、魔術を使っているのが屋根にいる人間だと分かった以上、その人間を落とすことに決める。
列車はその次にいくらでも好きなように料理してやるが、自分をあれだけおちょくってくれた人間は絶対に許せない。
その一心で一直線にワイバーンが突進攻撃を仕掛けるが、三人は先ほどのドラゴンの体当たりからこの巨体の弱点のヒントを得た。
まずはロオンが巨大なファイヤーボールを、そのワイバーンの側面に当てて挙動を乱す。
次にその挙動を乱したワイバーンの顔面目掛け、ルディアの両手に生み出されたエネルギーボールが連続してホーミング魔術で襲い掛かる。
「これで……終わりだあっ!!」
魔術で挙動を乱してヨロヨロと屋根に着陸したワイバーンの頭に、跳び上がったラシェンの双剣が勢いよく突き立てられ、ワイバーンの意識がそこで途切れた。




