108.背後関係
ネルディアの町中へと戻ったルギーレは、マスターの連行をグラルダーとルディアに任せてまず画家に依頼達成の旨を伝えに行く。
酒場の捜索によってマスターの多額の隠し財産も発見されたので、その金を持って絵画の代金を支払いに行ったのだ。
『ああ、どうもありがとう。これで当分は食べ物が買えるよ』
「そりゃよかったぜ。ところで例の話なんだが……」
『うん、教えてあげるよ』
このシュヴィリスという画家は「レイグラードにまつわる噂を聞いたことがある」と、後でルギーレを見つけたルディアたちに説明した。
半信半疑だったルディアたちだが、今回の事件に騎士団員たちが関わっていると聞いたとたんに目の色が変わり、解決に向けて動き出した。
結果としてもともと騎士団員だったマスターが逮捕されて幕を下ろしたのだが、まだ事件の背後関係を調べなければならないのだ。
それが出るまでに、まずはルギーレが噂の内容を確かめにこうしてやってきたのだが、その内容が驚くべきものだった。
『その噂っていうか……僕もドラゴンだからわかるんだけど、もう一つの宝玉はここからずっと南の方に向かった森の奥深くの遺跡にあるんだよ』
「遺跡?」
『そうそう。レイグラードが完全体になった時の力は強大だからね。それを使いこなせる人間が現れないと、レイグラードを持っていても意味がない。僕たちドラゴンもそれを考えて、どこか人の目の届かない遺跡にそれを封じたんだ』
「じゃあ、その宝玉を取りに行けばいいんだな?」
『そうだね。でも気を付けてよ。その遺跡は僕じゃない別のドラゴンが作ったんだけど、内部はトラップでいっぱいだ。レイグラードの力も使えないようなトラップがある。頭も使わなきゃいけないし、力だけでも頭だけでも踏破はできない』
しかし、その遺跡を踏破すればそれだけ価値のある宝玉が手に入るのだ。
これはリスクを冒してでも取りに行くしかない。
「わかったぜ。だが、それでも俺は……いや、俺たちは行くぜ」
『なら僕は止めないよ。ちなみにその遺跡を造ったのは緑色のドラゴンなんだ。僕から連絡して出入り口の封印を解いておくように言っておくから。さすがにその封印は人間の力では破れないからね』
シュヴィリスから手助けをされることを約束したルギーレは騎士団の本部へと戻ったのだが、そこでは何やら深刻なムードになっていた。
空気が重いことがわかるその会議室に入ると、最初にロオンがルギーレに対して口を開く。
「ああ、ルギーレさん……お疲れ様です。情報の方はいかがでしたか?」
「はい、無事にゲットしてきました。南の方に遺跡があるってんで、そこに行けばわかるって話でこうして地図も書いてもらいましたよ。でも……」
グルリと会議室を見渡してみれば、ロオンのみならずルディアもグラルダーも、さらにはロナもカリフォンも総じてテンションが低い。
「何かあったんすか? さっきのマスター絡みとか?」
思い当たる節がそれしかないのでそう聞いてみたルギーレに対し、カリフォンが最初に口を開いた。
「ああ、そうなんだよ。あの酒場のマスターの野郎は裏で麻薬の取引をしてたんだ」
「え?」
「麻薬だよ、麻薬。酒場を徹底的に調べたら、地下に麻薬がぎっしり詰まった倉庫を造ってやがったんだよ。それで荒稼ぎしてやがったんだ」
「え……でもそれじゃあの絵の金は……」
麻薬といえば、思い出されるのはあの農機具を改造した魔術兵器の存在である。
あれも麻薬絡みの話だったが、荒稼ぎしたというのに絵画一枚の代金すら払えなかったということになるのだろうか?
それはちょっとおかしいのではないかと考えるルギーレに、さらにカリフォンからの話が続く。
「多分、あの絵の金すら払えねえのはそれはそれでおかしいって思ってんだろ? 俺たちもそう思ったんだがよ、あいつがコートの裏に大量に持っていた小型爆弾。あれも魔術兵器の一つなんだよ。しかも騎士団で使ってるのとはまた別タイプの」
簡単に聞き出しただけでも、あのマスターは麻薬の存在がバレそうになった時にその貯蔵庫ごと酒場を爆破して逃げる算段だったらしい。
だが思わぬタイミングで思わぬ理由によって踏み込まれてしまい、逃げるのに頭がいっぱいでそこまで気が回らなかったのだとか。
「で、爆破に失敗したから上手く逃げおおせたらまた麻薬を売って荒稼ぎしようと思ってたらしいんだが、それも失敗して捕まったと。金がなかったのはその小型爆弾を護身用も兼ねて大量に買ったからなんだってよ」
「買った? 誰からです?」
「どうやらそれが……黒ずくめの男の仲間らしいんですよ」
カリフォンに続いてロナから出てきた情報に、ルギーレは頭を抱えるしかなかった。
またあいつらが絡んでいるのか……と。




