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9.戻る気はない

「あれ、俺ってもしかして気づかれたか?」

「え?」

「いや、あの銀色の鎧に緑の髪の女がいるだろ。あいつと目が合ったような気がしてさ」

「そうなの? 特に私は何も感じなかったし、ほら……何もないように行っちゃうじゃない。きっと気のせいよ」

「だといいけどな。それじゃ俺たちも行こう」


 だが、そのルギーレをルディアが止める。


「いや、このまま勇者たちの後を追いましょう」

「は!?」

「もし私たちが現場についたときに、すでに敵が殲滅されていたらそれこそ行って帰ってくるだけになるわ。だったらこのままこっそり後をつけて、ギルドで報告を済ませるか見てきましょう」

「ま、まあ……それもありっちゃありだけどよぉ」


 事実、マリユスたちも自分が受け取ったのと同じ地図をもらっているのだし、依頼が終わっていたら確かにくたびれ損である。

 というわけで距離を開けて尾行を始めた二人だったが、物事はなかなかスムーズに進まないのだということをこの後に思い知らされる。


「……あいつら、ギルドの前を通り過ぎたぞ?」

「おかしいわね。依頼達成の報告をするのは義務のはずなのに。勇者だからってそこは免除されてたりしたの?」

「いいや、全然。普通に依頼が終わったらギルドに報告してたぜ?」

「うーん、忘れ物でも取りに来たのかしら?」

「さあな。あいつらの考えてることはわからねえけど、これはきっと何かあるんじゃねえの?」


 マリユスたちの行動に疑問を抱きつつそのまま尾行を続けていくと、一行は広い道から曲がって路地へと入った。

 こんな場所で一体何をするつもりなのだろうか、と首をかしげながらもルギーレが追いかけていこうとしたのだが、それをルディアに手で制される。


「っととと、なんだよ?」

「だめ……これは多分きっと、あなたの存在に向こうが気付いているわ」

「え?」


 さっき目が合った時には気のせいだとか言っていたはずのルディアが、神妙な面持ちになりながらルギーレに警告する。

 その理由は、路地の奥から流れ出してくる魔力の感覚だった。


「待ち伏せされているから、ここは気が付かないふりをして引き返しましょう」

「もし行ったら……?」

「そのときはただじゃすまないでしょうね。だから予定変更。ここはおとなしく引き下がって、ギルドに向かいましょう。そこでまだこの依頼が終わっていないかどうかを確かめるのよ」

「そうだな、そうすっか」


 二人は足を進める向きを変えて、先ほど通り過ぎてしまったギルドへ向かおうと歩き始めた。

 だが、その目の前には腕組みをした一人の人間が立っていた。


「こそこそ人の後を付け回して、挙句の果てには何もせずに逃げようとは、そうはいかないんだよな」

「……!」


 全身を黒い武具で覆っている、青い髪の勇者マリユス・ストローブの姿がそこにあったのだ。

 さらに路地からはかつてのパーティーメンバーであるリュド、ベルタ、ライラ、そしてベティーナの四人も出てきて、それぞれ二人を羽交い絞めにして路地へと連れ込んだ。


「うわっ!」

「まさかこんなところでこんなに早く再会するとはな。もしかしてまだ俺たちに未練があるのか?」


 路地の壁に追い込まれる様は、まるでならず者に恐喝を受けている一般人にしか見えない。

 しかし、ルギーレは首を横に振った。


「全然。ただ、勇者様が行ってきた依頼の結果が聞きたかっただけなんだよ」

「なんだと?」

「実は俺もお前と同じ依頼をギルドから受けててよぉ。それでお前らが先にロックスパイダーの巣に向かったって聞いた。で、運よく遭遇したから結果はどうだったのか聞きてえだけだよ」


 依頼は成功したのか、それともまさかの失敗か。

 それだけを聞きたいルギーレに対して、マリユスの反応は冷たいものだった。


「そんなのはお前に関係ない。聞きたいことはそれだけか?」

「ああ、本当にそれだけだぜ。別に追放されちまった今、俺はパーティーに戻ろうとは思っちゃいねえ。ってか、お前は人の話を聞いてろよ。俺はお前らと同じ依頼を受けたっつったろ?」

「この……あんた追い出されたくせに生意気なのよ!!」


 横からベティーナがルギーレにビンタを食らわせようとしてきたが、それを素手で受け止めたのがルディアだった。


「なっ……!?」

「待ちなさいよ。この依頼を受けたのは私なの。だから成功したのか失敗したのかは知る権利があるはずよ。成功したのであれば、依頼に全くかかわっていない状態の自分たちが報酬を受け取る必要がないはずだから、教えてくれないと依頼の達成に差し支えるのよ」


 相変わらずの冷静な口調でそう言うルディアだが、彼女はそのときハッキリと見た。

 青髪の勇者の目が泳ぐのを。

 それを確認して、ルディアは大体の事情を察した。


「……わかった。言いたくないならもういいわ」

「ちょ、おい……いったいどうしたんだよ? こいつに話を聞くんじゃなかったのか?」

「そのつもりだったけど、もう必要な情報は手に入れたからさっさと行きましょう」

「行くって……どこに?」

「もちろん依頼をこなしに行くのよ」


 そのルギーレとルディアのやり取りを聞いていたパーティーメンバーのうち、ライラが口を開いた。


「ねぇ、もしかしてあのロックスパイダーの巣に行くのぉ~?」

「だからさっきからそう言ってるじゃない」

「だったらやめておいた方がいいわよ~。どうせ、やられてエサにされちゃうのがオチだからぁ~」

「そうそう、いくらあなたがAランクの魔術師だからといっても、物事には限度ってものがあるわよ」


 その瞬間、ルギーレの顔がこわばった。

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