102.画家とレイグラード
「はー、結構おいしかったですねここのお店」
「そうでしょう? バーレンの中で最も有名なお店ですから」
「ただ、俺としてはもっとボリュームが欲しい所ではあるけどな」
店のチョイスに満足するルギーレと、自分が提案した店を褒められて満足そうな笑みを浮かべるロオン。
だが、大柄な体躯を持っているシャラードとグラルダーはボリュームの少なさに不満を感じている様子だ。
「それだったら俺のおすすめの肉料理屋に行くか?」
「おっ、あるのか?」
「ああ、あるぜ。俺とあんたとはなかなか食事で気が合いそうだな!」
「俺もそう思ってんぜ。よっしゃ、案内してくれや」
肩を組んで意気投合するシャラードとグラルダーを見て、ロオンとルディアは顔を見合わせて何とも言えない顔をしながら肩をすくめる。
「まったく、仕方がありませんね……セフバート隊長は」
「シャラードさんもまだこれからファルスの人に引き継ぎがあるっていうのに、元気ですよねえ……って、あれ? ルギーレは?」
「え?」
店を出て歩きながら話をしていたせいもあって、気が付いてみるとルギーレの姿がいつの間にか消えてしまっている。
誰にも声をかけずに忽然と姿を消してしまったルギーレだが、今の彼は別の人間に肩を組まれて路地裏に連れ込まれていたのだ。
「……何なんだよ、お前!? こんな場所にいきなり俺を連れ込んだりしてよぉ!?」
「それは君に話があるからなんだよね」
やや棒読みのような口調だが、肩をつかまれているその力はかなり強い。
いや……何だか人間の力ではないように感じるその力の持ち主は、先ほど自分たちが食事の前に通りがかった画家の男だったのだ。
上下すべてが青でコーディネイトされているファッションの持ち主の彼を見て、ふと思い出すのは人間の言葉を理解することができるドラゴンだった。
そして彼は人気のない路地裏にルギーレを連れ込み、改めて向かい合ったかと思えば開口一番に衝撃のセリフを口に出した。
「さて……君の腰に差さっているその赤い柄のロングソードって、ルヴィバーが使ってたレイグラードだよね?」
「……!?」
自分は一言もこの男に、このロングソードがレイグラードであると話していない。
そもそも先ほどチラリとこの男の画家としての姿を見ただけで、まるで初対面のはずなのにどうしてそれがわかるのか?
困惑してどう次のセリフを出そうか頭が回らないルギーレだが、画家の男は更に衝撃的な一言を投げかけた。
「それから君さあ、もしかしてセルフォンってのと会わなかった?」
「せ、セルフォン?」
「ほら、君たちが出会った医者だよ医者。その医者の匂いがするんだよね。僕にはわかるんだよ」
「君たち……って何で知って……、あ、あんたってもしかして……!?」
もうこの画家の男が何者なのかは察しがついたルギーレは、少し距離をとって身構える。
しかし、それでも目の前の男は動じたそぶりを見せない。
『んんー、まあもうバレちゃってるだろうから先に自己紹介しておくよ。僕はシュヴィリスって言ってね。医者のセルフォンと同じでこの世界を昔から監視しているドラゴンの一匹だよ』
「あんたも……伝説のドラゴン……!?」
『そうだよ。もしかして伝説のドラゴンは一匹しかいないって思ってたの? だとしたら大きな勘違いだよ』
この広大な世界を一匹で見回り続けることなんてできやしないじゃん。
そう言いつつ、シュヴィリスと名乗ったドラゴン(?)は背中に背負っているキャンバスと画材道具の中から小さな紙と羽根ペンを取り出した。
『僕は表向きはこうして画家をやっているんだよ。運動するのが嫌いでね。でも世界の監視者でもあるから時々こうして町に出てきてるの』
「そうなのか。それで俺に声をかけた理由は、このレイグラードが目的なのか?」
『目的ってほどじゃないけど、ルヴィバーと同じ匂いを感じたからね。僕はずっと昔からこの世界に生きていて、そのレイグラードの匂いも覚えているから』
シュヴィリスが言うところによると、ルギーレはこの先でまだまだ戦いに巻き込まれるかもしれないとの予感がするらしい。
『君がその剣を持っている限り、それを狙って行動する輩が多数出てくるだろうね。でも君がそれを手に入れて所有者として選ばれた以上、君にはそれを守り抜く義務が生まれてしまったんだ』
「義務だって?」
『そうだよ。それがレイグラードに選ばれた者の使命なんだ。勇者パーティーの話ももちろん聞いているけど、あの人間たちにはふさわしくなかったから君を選んだ』
「お、俺って偶然選ばれたわけじゃなかったのか?」
選ばれし者としてあそこに吸い寄せられたのか?
ルギーレがそう聞くと、シュヴィリスは首を縦に振った。
『そうだね。レイグラードは自分が認めた者以外には真の威力を発揮するようなことはしないから。でも気を付けなよ。さっきも言ったけど、君はその剣を持っている限り狙われ続けることになる』




