100.許可は?
こうして、やや強引にではあるがルギーレがルディアから勝利をもぎ取ったところでシャラードの持っている魔晶石に通信が入った。
「ルザロか。……ああ、それでその件だけど……え? やっぱ無理? だよなぁ……」
通信を受け取ったシャラードの表情と声色だけで、ルギーレもルディアも彼が何を言われているのかをすぐに察した。
結局将軍としてのシャラードの許可が下りなかったのだ。
しかし、ファルス側としても魔術兵器に関しての話があるとなれば黙っているわけにはいかない。
「……そこで、代わりと言っては何だけど俺の代わりにリアンとラシェンが来ることになった」
「え、左翼と右翼のそれぞれの騎士団長様がですか?」
「そうだ。いずれは俺たちのファルスにも魔術兵器が闊歩する時が来るかもしれない。だが、それは陛下や宰相のカルソン様が認めなければ話も進まない。ただでさえファルスは魔術に疎いやつが多いからよお。今はまだその時じゃねーだろ」
シャラードはその魔術兵器に命まで狙われているし、正体を知らなかったとはいえ実際に黒ずくめの男たちに協力してしまった過去もある。
その事実確認や将軍としての責務もあるため、リアンとラシェンの二人に交代する形で話が進んだのだ。
だが、そこで引っかかったルディアが手を挙げる。
「あのー、私ちょっと気になるんですけど」
「何がだ?」
「このバーレン皇国とファルス帝国って昔の戦争でいがみ合いがあったじゃないですか。その辺りの事情ってちゃんとお互いに考慮した上での話なんですか?」
「あー、それだったらすでにカルソン様がこっちの宰相さんに話は通したってよ。本音を言えば俺が捜査した方が早えと思うんだけどなぁ」
話が通っているのであれば問題はないのだが、確かにシャラードの言う通りだろうとルギーレも思う。
黒ずくめの連中の顔を一番知っているのは自分たち以外であればシャラードだろうし、ここまで一緒に来てしまった以上は彼が引き続き捜査に加わった方がいいだろう。
しかしやはり、彼は騎士団ではなくて警備隊を統括する責任者なのだからいろいろと決定権もあるだろうし、その辺りも考えると戻って来いという命令もわかってしまう。
(組織ってのは本当にがんじがらめなんだろうなあ。俺がパーティーにいたころはそこまで窮屈に感じなかったけど、あんな少人数のパーティーじゃなくてもっと大人数の組織だからこそ、やんなきゃいけねえこともたくさんあるんだろうなあ)
だが、シャラードもこのままただで帰るつもりはなかった。
「まあ、俺も連絡係として向こうにいながらならバックアップできるから、いざとなったら俺に連絡してくれよ。それからルザロにも話は通しとくからさ」
「助かります」
それでも、左翼と右翼の騎士団長をそれぞれ回してそれこそ西と東の警備体制は大丈夫なのだろうか?
組織の考えることはよくわかんないなとルギーレが考えていると、新たに鍛錬場に入ってきた人間の姿があった。
その人間の姿を見たシャラードがあっと声を上げる。
そしてその人間もまた、シャラードの姿を見つけて表情が変わった。
「おや……ロナ様やシェリス陛下から話を聞いていたファルス帝国からのご客人とはあなたでしたか、シャラード総隊長」
「久しぶりじゃねえか、シャラード……」
「本当に久しぶりだよ。ロオンにグラルダー」
現れたのは苦労人の雰囲気を漂わせている黒髪の細身の男と、大柄で弓を背中に携えている紫髪の中年の男だった。
そして、ルギーレが彼ら二人と少しだけ面識があった。
「あれ……魔術剣士隊の隊長さんに弓隊の隊長さん! 確か前に会ったことありますよね? お久しぶりです!」
「あなたは……?」
「ほら、覚えてないですか? 勇者パーティーの中にいたルギーレですよ」
「……えーと……」
しかし自分を指差してアピールするルギーレの奮闘もむなしく、その二人の隊長は彼のことを覚えていなかったのだ。
「申し訳ございません、勇者パーティーの方……と申されましてもちょっと記憶が……」
「すまん、俺も覚えてねえ。誰だっけ?」
「……ルギーレです。ルギーレ・ウルファート」
さすがにフルネームを名乗れば思い出してくれるかと考えていたのだが、ロオンと呼ばれた魔術剣士隊の隊長も、グラルダーと呼ばれた弓隊の隊長も彼のことを覚えていなかった。
「申し訳ございません、本当に思い出せません……」
「そ、そうですか……」
「ああ、すまねえけどまた自己紹介してくれっかな。俺たちも陛下とロナ宰相から話だけは聞いてっけど、正直思い出せねえ」
「わかりました……」
重い空気が鍛錬場に流れる。
それを見たルディアも、どうしようかとオロオロするばかりで心の中で叫ぶことしかできないのであった。
(ダメ……気まずすぎて見てられない……)




