ご。
──次の日の朝。
中学は学区が違ったってだけで、元山くんのお家は近い。
学校だとタイミングに悩むので、作ったものを渡しにお家まで伺うことにした。
しかし、いざインターフォンを押そうとして、悩む。……迷惑だろうか。迷惑に違いない。いや間違いなく迷惑だろう。
でも迷惑なら、既にもっとかけている。
(──よし)
覚悟は決まった。
そうインターフォンを押そうとした途端、玄関扉が開き──
私はそれに、頭を打ち付けた。
「った!!」
「! …………柊!?」
──バサッ
手荷物の紙袋が落ち、中のタッパーの蓋も開いて……中味が出てしまった。それに気付いた私は、慌てて散らばった中味を拾い集める。
「たまごやき……?」
そう、たまごやきだ。
「いやあのこれはっ」
「……俺に?」
「違っ……くはないけど~……」
確かにホットケーキミックスは万能だった。
しかし、私はまたもやらかしてしまった。(※その詳細は割愛する。なにしろホットケーキミックスは400gもあったのだ)
──最終的に、卵しか残らなかったのである。
ちなみにたまごやきもそれなりに失敗し、このたまごやきは一番上手くいったやつだ。
……落ちちゃったけど。
考えてみれば酷い。我ながら酷い。
卵しか残らないとか、どうなっているんだ。逆に、面白すぎる。
開き直ってヘラヘラ笑いながら、元山くんに『卵しか残らなかった』と説明した。
……本当は泣きそうだ。
なんであげようと思ったか、とか、
昨日のは誤解だ、とか。
何故かそういうのは、まるで口から出てこない。
ヘラヘラ笑う私に、元山くんは言った。
「──よこせ」
「え」
「俺のだろ」
「いや、落ちちゃったし」
「紙袋の上だ」
「ダメだよ汚…………あっ」
── 食 べ た 。
無理矢理タッパーを奪い、中にぐちゃぐちゃに拾い集めたたまごやきのひとつを。
食べた。
またひとつ。そしてもうひとつと食べ進めていく。
一番上手くいったやつだが、あくまでも私の中でだ。しかも落ちたやつ……仮に汚れてなくても、見た目的にはかなり汚い。
こんなの美味しくないに決まっている。
だが、聞かずにはいられなかった。
だって、食べてくれたから。
「…………ど……どう?」
「──」
元山くんの感想。それは──
「不味い」
……いつも通りだった。
でも彼は小さく「ご馳走様」と言ったあと、こう続ける。
「しょーがねぇから……もう少しマシになるまで、教えてやるわ」
空になったタッパーを、渡しながら。
「もっ……もとやまくぅうぅ……!」
私の脳裏には、元山くんとの諸々が走馬灯のように蘇り──泣いてしまった。
元山くんは「泣くな! キメェ!!」と言いながらも、丁寧にアイロンがかけられたハンカチを渡してくれる。
……多分こういうのをハンカチ王子というのだろう。よく知らないけど。
「──前言撤回だ」
「え」
学校に着くなり元山くんは倒れ、保健室に運ばれた。……腹痛で。
原因は明らかである。
「『もう少し上手くなるまで』とか、生温い……柊、お前が上手くなるまで、俺は……10年でも20年でも、いや
例え30年でも、ミッチリ教えてやるからなぁぁ!!」
横たわり、お腹を抑えながら元山くんはそう約束してくれた。キレ気味に。
──なんて責任感の強さだろう。素敵。
だけどとりあえず……
次の水曜日には、胃薬を用意しておこうと思う。