に。
「……美味しい!」
──これは私の台詞である。
説明する必要も無いと思うが、決して元山くんの台詞ではない。
その後……元山くんは手際良く、余り材料で見事なマフィンを作ってくれた。「どうしたらああなるのか不思議」と言いながら。
「弟子にしてつかぁさい!」
「…………は?」
「弟子にしてつかぁさい!!」
「……うん、意味わからん」
感動した私は元山くんに一方的に弟子入りし、今に至る。
口調がおかしいのは、前の晩観た任侠映画の影響だが、些細なことだ。
『有り得ない味』──それが元山くんの評価だった。
『不味い』と言って貰える今、私は確実に進歩していると言える。
「でもこのままじゃなぁ~……」
お料理教室は毎日な訳では無い。
家庭科室が空いている、水・金に使用許可を貰っている。
何も無い日は幼馴染みの友人、蘭ちゃんと一緒に帰るのが常。
「これじゃいつまで経っても、元山くんになにかプレゼントするとか無理だよねぇ」
私のボヤキに、蘭ちゃんは軽く舌打ちをした。
「毎回不味いとか言われてんでしょ? 」
蘭ちゃんは美人さんで、少し気が強い。だからか似たタイプの元山くんを、あまり好きではない様子。
元山くんの『不味い』を非難しているが、私のお菓子?に『物体X』という名前を付けたのは彼女である。そのセンスは素晴らしいが、根本は元山くんに近い。
「あんなのどこがいいわけぇ?」
「ハッキリしてるところとか、」
「デリカシーがない!」
「実は優しいところとか、」
「ツンデレかよ!」
「…………」
ブーメランだなぁ、と思ったけど、言うのは止めておいた。
「あんな男のために、もと子が(物理的に)傷付くのは耐え難いわ……」
「いやむしろ元山くんの方が、私のせいで(物理的に)ダメージを食らっているから……(主にお腹とか)」
「大体、元山になにかプレゼントするとかさぁ……どうなん?」
「……ん?」
「元山から教わってるのに、なに作るの?」
「────」
──それは、まさに正論だった。
指示されていることすらマトモにできないので、多少上手くなっても『教わったもの』しか多分作れないだろう。
しかも元山くんのが明らかに上手。
果たしてそんなものがプレゼントになるのか?!
プレゼントの定義とは!!
(……ならないとは言えない)
だが、それが私のしたかったことかと言うと、否。
私は蘭ちゃんと別れたあと、ひとり考えた。
(やっぱりプレゼントと言ったら……サプライズだろう……)
だからと言って『サプライズ』部分だけを抽出し、皆に頼みフラッシュモブでプレゼントを渡す……とかいうのも断じて違う。
私がやりたいのは──
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
綺麗にラッピングしたプレゼント(※未定だが食物・できればお菓子がベター)を渡す。
「えっ俺に!?」(※サプライズ)
開けるよう促すと、そこには彼が教えてないハズのモノ。
「──いつの間にこんなの作れるようになったんだ?!」(※サプライズ)
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
── こ れ だ 。(確信)
今一瞬、
「不味ゥゥゥゥ!!」(※サプライズ)
……というオチ的な画像が脳内に過ぎったが、それは私のやりたいことではない。
「美味しい」と言わせられないにせよ、「まあまあだな」とか「食えないことはない」位のサービストークは引き出したいところ。
(それには秘密特訓が必要だよね!?)
納得した私は奮起し、早速家のキッチンに立った。
──が、
「もぉぉとぉぉくぉぉぉぉぉ……!!」
普段温厚な母の、地から鳴り響くかの如き声。
私は勝手口から投げられるようなかたちで台所から出され、使用を禁じられた。
思い当たる節は山ほどある。
フライパンは何故か火を噴き、ボウルの中味は踊るように飛び散り、レンジを使えば中で破裂音。──
自分の才能(※負の)を舐めていたのだ。