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剣舞祭編1

その日は快晴だった。セリオン・シベルスク Selion Sibersk と エスカローネ・シベルスカ 

Eskaroone Siberska は、ツヴェーデン北西部にあるレーネ湖にいた。

二人は湖の周囲を散策していた。周囲には家族連れや若い恋人たち、老いた夫婦の姿があった。

散歩道の脇には緑の木々が植えられ、陽光を受けている。

「今日はいい天気ね、セリオン?」

エスカローネは隣を歩いているセリオンに言った。

「ああ、そうだな」

セリオン――その異名「青き狼 Bleu Lykos」を誇る――はエスカローネにほほ笑んだ。

セリオンは聖堂騎士である。そして、エスカローネの夫だった。

エスカローネはうれしかった。こうしてセリオンと一緒に歩いているだけで。エスカローネは紺色の軍服ジャケットにボックス型の青いミニスカートといういでたちだった。

対するセリオンは質感のいいノースリーブの紺のシャツに紺のズボン、黒い軍靴といった格好である。

二人は手を握って歩いている。エスカローネの膝まで届く長い髪が揺れる。長い金髪は光沢を放つように美しかった。

「セリオン、もう少しで剣舞祭ね?」

「そうだな」

「今年の剣舞祭はどうなるのかしら?」

剣舞祭けんぶさい」はシベリア人の祭で剣士たちが勝敗をかけて戦う。ちなみに前大会の優勝者はアンシャルである。

「俺は前回はいい所までいったけど、途中でアンシャルに負けた。今年も参加する予定だけど、いったいどこまでいけるかな……」

「今年は優勝できるといいわね」

「はっははは、優勝を狙っているんだけどな」

セリオンがはにかんだように笑った。二人は散歩道に沿って、曲がる。つないでいる手に力がこもった。

突然、セリオンがつないでいないほうの手でエスカローネの髪に流すように触れた。

「セッ、セリオン!?」

エスカローネはびっくりした。びっくりして歩みが止まった。

「うん。俺はやっぱりこの髪が好きだな」

「もう、セリオンったら……」

エスカローネは赤くなった。でも、いやではなかった。



剣舞祭前――

セリオンとアリオンは剣の訓練にいそしんでいた。その様子をシエルとノエルが見守っている。

場所はテンペル内の一画である。

「また腕を上げたな、アリオン」

「もちろんだよ。俺だってなまけてるわけじゃない」

セリオンはアリオンの剣撃を受け止めつつ言った。

セリオンの大剣とアリオンの刀が交差する。

「今年の剣舞祭は優勝するつもりなんだ。セリオンが相手でも負けないぜ!」

アリオンは刀でセリオンの大剣を受け流し、さらに刀で横に斬り払った。セリオンはアリオンの攻撃を冷静に受け止めた。それを見てシエルが。

「アリオンったらむきになっちゃって」

「アリオンがお兄ちゃんに勝てるわけないじゃない」

とノエル。

「俺だっていつまでも弟分ってわけじゃないんだ。なめているとセリオンでも危ないぜ!」

髪も赤、服も赤、瞳も赤――赤髪のアリオン。赤はアリオンの色である。青がセリオンの色であるように。

アリオンは刀でセリオンに攻撃した。連続で四回。

セリオンはアリオンの攻撃をただ静かに受け止めるだけだった。

セリオンの色は「青」。セリオンの青とアリオンの赤は好対照をなしていた。

セリオンは反撃に転じた。横に一閃斬りつける。速くて重たい一撃だった。

アリオンはその一撃を受け止めたものの、苦悶にあえいだ。

「くうう!?」

「いくぞ、アリオン?」

セリオンはよりすばやく大剣でアリオンを斬りつけた。セリオンの攻撃の前にアリオンは追い詰められていく。アリオンはとっさに大きくバックステップしてセリオンとの間合いを開けた。

再び両者のあいだに緊張が満ちる。シエルとノエルはかたずをのんでその様子を見守った。

二人がまたぶつかりそうになったその時。

「アリオン!」

ある女性の声がした。四人は視線をそちらに向けた。

そこには青い修道服を着た女性が立っていた。

「母さん?」

「ダリア?」

彼女の名はダリア Daria アリオンの産みの親である。年齢は三十七歳。

「アリオン、何をやっているの? 危ないことはやめなさいと言っているでしょう?」

ダリアの指摘にアリオンは。

「訓練だよ、訓練! 別に危なくないってば!」

「私はあなたがセリオンと本気で斬り合うことが心配なのよ」

「それは母さんが心配症なだけだって!」

アリオンは刀の構えを解いた。

「あーあ。せっかくいいところだったのにな。いい感じに熱くなってきたのにさ」

アリオンは不平を述べた。

「ははは、確かにな。ヒートアップしそうなところだった」

「だから私は止めたのよ。もう、二人とも分かってないわね」

ダリアはため息をついた。

「ダリア、アリオンはもう子供じゃないんだ。そんなに気にすることはない」

「うーん、私にはアリオンはまだまだ子供に見えるけど」

とシエル。

「そうそう、アリオンはまだ子供だよ」

とノエル。

「あー! よくもそんなことが言えるな! おまえたちだってガキじゃないか!」

アリオンはベンチに座っているシエルとノエルに抗議した。

「だって私たち十二歳だもんね、ねえシエルちゃん?」

「うん、そうだね。ノエルちゃん」

「勝手に納得するなよ!」

「アリオンはまだ子供よ。せめて、十六、七歳くらいになってもらわないと」

「なんだよ、母さんまでさ! あーあ! 俺の味方はセリオンだけかー!」

「俺はアリオンを大人として扱うさ。そのかわり大人としての責任も求めるけどな」

「俺はもう十五歳だ。大人の中に入れてほしいよ」

そう言うと、アリオンは刀をさやの中にしまった。セリオンも武器をしまった。

「セリオン」

「? 何だ、アリオン?」

「今度、剣舞祭があるよな? その時は俺の本気を見せてやるよ。だから、セリオン。本気の俺と当たるまで絶対に負けないでくれよな。約束だぞ?」

「ああ、分かった。本気のおまえと当たるまで決して負けはしないさ。おまえの本気をこの目で見てやる」

セリオンはアリオンに向かいなおって答えた。アリオンの目は真剣だった。アリオンは戦ってみたかった。本気で、セリオンと。アリオンには強い意思がこもっていた。

セリオンは同じ大人の男としてアリオンの挑戦を受け止めた。

「剣舞祭の出場可能年齢は十五歳からだ。今年から俺にも出場資格がある。今年の剣舞祭には俺は必ず出る! 相手がセリオンでも容赦しないぜ! じゃあな!」

アリオンは小走りで中庭を後にした。

「まったく、あの子ったら言いたいことだけ言ってどこかに行ってしまって……」

ダリアはあきれたようだった。ダリアは一人息子のアリオンを心配していたんだが……

「アリオンらしいよ」

セリオンはダリアに言った。

「ごめんなさいね、いい迷惑でしょう? あのお調子者は……」

「いいや、俺は別にかまわないさ。俺もアリオンの本当の力量を見てみたい。なんだかんだいって、よく育っているんじゃないか、アリオンは。ダリアは心配しすぎだよ」

「本当にそうだといいんだけれど……」

ダリアは苦笑いを浮かべ、肩をすくめた。


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