獣の言葉Ⅱ
この物語に出てくる神や人物名、場所は全て架空のものです。
「目を覚ますと、俺は深い森の奥にいた。魔法を使いすぎたせいなのか、朦朧とする意識を何とか回復させようと、体を動かし、横を向いた。
最初は辺りの緑色しか認識できていなかった俺の目も、徐々に慣れていき、視界を取り戻した。
あぁ。あの時の事は鮮明に覚えているよ。
徐々に体を動かし、体を反対側に向けてみると、そこには透き通るような青い目と、髪を持った女性がいたのさ。
その女性の名前は『クレスーダ』。
まぁ君も知っているだろう。クレスーダは、伝説の種族『竜人』だった。
俺も彼女の種族を知ったのは出会ってから随分後の話になるがな…。
一筋に『竜人』と言っても色々な分類がある。
クレスーダは、悪名高き伝説の竜、『バスクリウス』の末柄だった。
もちろんバスクリウスの天災は知ってるよな?
今から約千年、黒龍と呼ばれる龍が世界を闇に変え、滅ぼそうとした。
我々平民達も必死にあらがおうとしたが、激怒した黒龍にかなうはずもなく、多くの犠牲者を出してしまった。
人々が絶望にくれる中、再度黒龍が現れ当時の最大国『ペルスーア』の長に謁見した。
その後、長と黒龍は忽然と姿を消した。
二人のいた部屋には、一本の太刀が地面に刺さり、深い闇の輝きを放っていた。
そこに、偶然現れた男が太刀を持ち、怒り狂う黒龍を退治したという話だ。
この伝説は今尚語り継がれるものでありながら、ほとんどの真相は分かっていない。
今話したたったこれだけの文字が小さな文献にまとめられていただけだからな。
で、その怒り狂う黒龍が『バスクリウス』、長の元に現れた黒龍が『ヴィスルー』ということだ。
クレスーダは確かにバスクリウスの末柄ではあったが、とても温厚で優しい女性だった。
しかし、彼女も、『末柄』という言葉に迫害されていた。
そこで彼女は、ほとんど誰も立ち入らない森の奥深くに隠居していた。
俺は行く当てもなかったので彼女と一緒に暮らすことを決意した。
森の奥での生活は平和で非常に楽しいものであった。
が、それもつかの間。
人間と、妖精の本格的な対立が深まり、いつ戦争が始まってもおかしくないほどにまで発展してしまっていた。
クレスーダの話によると、ここは丁度妖精族の国とオスミール王国の中間の『絶対的不侵入中立地域』の場所。
もし、戦争が始まった時、一番に戦火を浴びるのはこの森であることは容易に予想できた。
しかし、ここ以外行く場所の無かった俺達には移動する選択肢を選ぶことは難しかった。
更に、俺の親父の様にオスミール内で異種間の事を責め立てられ土地を追われたものが次々と森に逃げ込んできたのさ。
行き詰ったクレスーダは禁断の方法に手を出してしまった。
彼女は、森の悪魔と呼称される『ゼィーファー』という邪神と契約を結んだ。
神と契約するときに必要な代償は神の数だけ存在する。
まぁ有名でよく契約されているものだと、水の神『ソフィーネ』は信仰を対価に望む。火の神『ワルスイド』は酒。そこまで大変な対価ではない。
だけど、ゼィーファーは違う。提供するものは森の生命の維持。そして、対価は…【契約者の正の感情】。
クレスーダは確かに容姿は綺麗だが、それは竜人の特権で、実際の年齢はもういつ人生に幕を閉じてもおかしくなかった。
それを見かねた彼女は、提供後、自殺をするつもりだったのさ。
もちろん止めたさ。けど、魔法結界で俺の近づけぬ間に契約を終わらせていた。
そして、彼女は笑顔のまま薬を飲んで倒れた。
俺は、自分に色々言い聞かせ、涙をこぼさないように別れを告げた。
しかし数分後、クレスーダは立ち上がった」
筋肉男を照らしていた月に段々と雲がかかっていった。
小説を書いていると、つい神の設定に神話を使いたくなってしまいますが、この物語に出てくる神や神話は架空のものです。
「黒龍は別に悪い龍じゃない!」
とか言わないでね
特に神話は参考にしてません。