これが本当のリスタート?
静かにアンリが退室していく。
二人きりにならないよう、一応ドアは開いていますが、会話が漏れる心配は無さそう。
ゆっくりと、深呼吸を一回。
「シリル様。実は私にも未来の記憶があります。
病にかかり、視界が暗転した後――目覚めたら、今朝に戻っておりました」
シリル様は驚いた顔をなさったけれど、すぐに訝しげな表情をされた。
「本当か!?
だが、あの石は私が使った一つしかない。リリスも戻ってこれるはずがない」
やはり、頭の回転の早い素敵な人。
「はい、それに関してはひとつの予測を立てさせて頂きます」
「予測?」
「予測というよりは、推定に近いかと思います。
先ほどのシリル様のお話。婚約と結婚は同じですが、至る経緯と関係性が私の記憶と全く異なっております。
以前の私は、心からシリル様を愛しておりました。ですが、シリル様はそうではありませんでした。
いっそ嫌いなのだと断じられた方が楽だったかもしれません。
それ位、シリル様は私に何の感情も向けてはくれませんでした。
私も、病にかかったときはこれでやっと楽になると――死が救いになる程に疲れきり、死と共にシリル様への気持ちも消えました。
……ここで本題に戻ります。
私は私の時間軸で時の石を使用してここにいます。シリル様も然り。
なぜ時間軸の違う私たちがここにいるのか全く見当もつきませんが。
私にとってのシリル様、シリル様にとっての私。外見は同じでも、別人である。これが私の推定です」
途中、何か言いたげだったシリル様だったが、口を挟ませず最後まで言い切った。
温くなった紅茶を再び含む。
口の渇きに、異常なほど緊張していたことを遅ればせながら自覚する。
落ちる、冷たい沈黙。
走る、痛い程の緊張。
その空気を破ったのは、シリル様だ。
すっと立ち上がると、私の隣に座る。
――え?
「たとえ、そうだとしても。私がリリスを愛している事実は変わらない。
リリスの世界の私に対して思うことはあるが……。さっき、リリスが言ったことが全て」
徐に私の手を取り、そのまま流れるように跪く。
「私は、彼とは別人だ。また一人の男として見て欲しい」
……そう、きますか。
他にも色々と言いたいことはあるでしょうに。
最後にふわりと微笑むと、シリル様がお立ちになる。
と、思った瞬間に手を引かれ――
「きゃあっ?!」
「そろそろ入学式に向かわないと。エスコートは、もちろん誰にも譲らない」
だから、近いですって!!
横抱きにされ、シリル様の鼻唄を聞きながら上昇する体温を感じる。
恥ずかしさを誤魔化すように自らの手を見つめる。
ふと、思いついた考えに、体が一瞬で冷たくなる。
時の石で戻ったことは、ほぼ間違いない。
でも、私の世界のシリル様が私に使うとは考えられない。
私を戻したのは、一体、誰なの――?




