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リスタート

これは、どういうことなのでしょう……?



私は病を得て、先ほど息を引き取ったはずなのに。

あんなに咳で苦しかった呼吸は楽ですし、寝ているベッドは実家の部屋のもの。


頭の中が疑問符で埋まっていると、ノックの後に懐かしい声が聞こえてきた。


「リリスティア様、お目覚めの時間です」

ドアが開き、メイド長のアンリが入ってくる。

その姿をぼーっと見つめる私と目が合うと、そのキャット・アイが優しく細められた。


「いつもはお寝坊さんですのに。やはり入学式という事で緊張されていらっしゃるのですね」


入学式という言葉を聞いて、頭の中の霧がサッと消える。

クリアになった頭の中に、走馬灯のごとく色々な記憶が思い出された。


裕福な侯爵家、優秀すぎる父兄。

繋がりを維持したい王家。

そこで組まれた、自分と皇太子の婚約。

歩み寄ろうとする自分と、突き放すシリル様。


政略結婚とは分かりつつ、大好きだった。

いつか、あの深海のような藍色の瞳が私に向かって微笑んでくれたら。

それだけを望みに生きてきた。


一生懸命書いたお手紙の返事が、違う筆跡で返ってきた。

定期的なお茶会も、様々な理由をつけて来なくなった。


それでも、デビュタントの日に渡してくれた、髪飾りが心の支えでした。

ベニトアイトとイエローダイヤをあしらったこれをつけていると、

「お互いの瞳の色なのですね、素敵ですわ」

と友人たちに褒められた。

シリル様の色を纏うことを許されたことに、愛情を感じたのです。

……それは、シリル様からの愛情に餓えた私が、なんとか掬い上げようとした希望だったのでしょう。


その希望も、私が作り上げた架空の希望。

シリル様の態度を見かねた母から手配されたものだと分かった。


15歳になり、国の決まりで王立貴族院へ通うことになった私たち。


そこでシリル様は本当に愛するかたと出会う。

お体が弱く、社交界ではお名前しか知らなかったフォンセル公爵令嬢、エリーゼ様。


私の白銀の髪とは対象的な、ふわふわの金髪。

パッチリとしたストロベリーの瞳。

陶器のような白い肌が人形のように見えたけれど、花が咲くような笑顔がその無機質な印象を振り払う。


お体の不調で、私たちより二ヶ月遅れて通学されるようになったそのお姿を見たとき、誰もが心を奪われた。


私も、シリル様も。


一週間後、私は見てしまった。


シリル様が、エリーゼ様に優しく微笑む光景を。

私が8年努力をしても得られなかったそのお姿。


蜜をねだる蜂のように、エリーゼ様の回りには男性が常にいらっしゃった。


シリル様はますます私を顧みることもなくなり、エリーゼ様に傾倒していった。


しかし、エリーゼ様は卒業と同時に隣国のアルヴァレス王子と婚約し、笑顔でこの国を発っていった。


私たちは何事もなかったかのように結婚した。

でも、結婚後もシリル様のお心はエリーゼ様にあった。

シリル様が迎えられる側室は、金髪か赤い瞳の美姫ばかりで、三人の側室との間に三男二女をもうけられた。


私は正妃でありながら、白い結婚を貫かれたお飾り王妃。


病気になってからは、隔離されお姿を見るどころか見舞いの品もお言葉もなかった。

最期の時も、私の手を握り泣きながら声をかけてくれたのは、アンリと侍従長のレイだけだった。


二人が毎日生けてくれた大好きなバラの花を見ながら、大切に思ってくれる二人に手を握られ生を閉じる……。

これも悪くない、と思いながら咳をしたのを最後に、意識が黒く塗りつぶされた。


そして、今。


私とシリル様と、エリーゼ様。

三人が出会うことになる、王立貴族院の入学式の日に、時間が巻き戻ったようです。

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