009「三人プラス一人」【Te005】
何をやっても裏目に出るときは、それ以上に何もせず、ただ時間が解決するのを待つしかないのだろう。
待てば海路の日和あり。夢物語のヒーローたちは、いつだって遅れてやってくるものだ。
*
塗装が剥げたテーブルと、革が破れたイスが無造作に転がっているだけ殺風景な廃墟に、テルルと、テルルを運んできた男と、その親分である女がいる。テーブルの上には、テルルが上着の下に提げていたポーチとその中身が置かれ、イスには男が座っている。
テルルは、気を付けの姿勢で通し柱に背を預け、その柱ごと適当に引き裂いたカーテンでグルグル巻きに肩から下を拘束されている。女は、まるでネズミを追い詰めた猫のような嗜虐的な笑みをたたえながら、吐息がかかりそうな距離でテルルを問いただしている。
「聞こえなかったから、もう一度だけ訊くわ。オレンジを拾った少年とは、どういう関係なの?」
「だから、初対面だって言ってるじゃない」
「あのハイスペックな貴族の少年が、あなたみたいな魔法も使えない庶民に親切にするはずないじゃない。どこで知り合ったの?」
「ホントに知らないんだってば。――ヒャッ!」
苛立ちまぎれに、女はブーツを履いた足で柱に蹴りを入れる。その衝撃で、柱に繋がっている梁や天井板から埃が落ちる。
テルルは、とっさに目を閉じて下を向くが、女はテルルの顎先を持ち、視線をそらせないようにしながら、再び問い直す。その横では、イスに座った男が、ゴホゴホとむせている。
「わたしは、気が長い方じゃないの。さっさと吐かなかったら、痛い目に合わせるわよ?」
「信じてよ。あたしは、あの人とは関係ないの」
「ふ~ん。どうしたって、口を割らないつもりなのね。どうしようかしら」
女は、一旦テルルから離れると、テーブルの上に足を組んで座る。そして、片手でスカートの端をススッとめくり上げていき、上になっている足の太ももが半分ほど見えるあたりで止める。そのあらわになった脚を見れば、ステッキが細い革のベルトで固定されていることが分かる。
その姿を見せつけるように、女は、わざと緩慢な動きでベルトからステッキを抜き取ると、その先端をテルルに向けながら、再度ゆっくりと近付いていく。そして、杖先がテルルの鼻先に指一本分の隙間しかない距離まで近付ける。
テルルは、ゴクリと音を鳴らして生唾を飲み込む。
と、その時である。
≪ブレッヒェン≫
バーン、ガラガラと、すさまじい音を立て、かんぬきをしていたペンキ塗りのドアが、木端微塵に吹き飛ばされる。
もうもうと立ち込める埃の向こうには、ステッキと二つ折りのメモを手にした少年のシルエットが浮かんでいる。