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トキメキ魔法は呪文いらず  作者: 若松ユウ
Ⅰ「二人の出逢い」
6/19

006「笑顔に一目惚れして」【Se003】

 誰かにとって当たり前で退屈だと思っていることが、別の誰かにとっては新鮮で興味深いものであることがある。

 たとえば、レディーファーストとか、初級魔法とか。


  *


 四辻を曲がったところで、セレンは、チョークで落書きされた壁に背を預け、両手で顔を覆う。その指の隙間からは、頬が紅潮しているのが容易に見てとれる。


「薄着で歩き回ったから、風邪でも引いたかな。なんだか、身体の奥が熱くなってきた」


 誰にともなく呟くと、セレンは顔から手をどけ、大きく深呼吸する。

 そこへ、薄手のロングコートを羽織ったタングステンが駆けつけ、声を掛ける。


「探しましたぞ、まったく。なすべきことが山積しているというのに、こんな風紀紊乱なところで遊んでるとは」

「げっ、タングステン。指輪は、途中で置いてったはずなのに」

「私の目を欺くのは、十年早いですぞ。どこへ行きそうかくらい、長年お側に仕えていれば、おのずから推測できます。さぁ、ホテルに戻りますぞ」

「むっ。仕方ないなぁ」

 

 不服そうな顔をしながら、セレンはタングステンが差し出す手を握る。タングステンは、その手を離さぬようしっかりと握り返すと、反対の手で懐からステッキを取り出し、杖先をホテルの方角へ向けながら呪文を唱える。


≪ツーリュックコンメン≫


 すると、二人の身体の周りにほのかな光がともるやいなや、瞬く間にシルエットが粒子状になり、その場から霧のように姿を消した。


  *


 時間を少しだけ巻き戻そう。

 テルルがオレンジを紙袋に詰めたり、セレンがテルルに声を掛けて魔法を披露したりしてる頃、物陰から二人の様子をジッと観察している男女が居た。

 二人は、木箱やワイン樽の後ろに姿を隠しつつ、その隙間から抜け目なく見ているのである。

 

「どうしやす、親分。ホテルからつけてきたのは良いっすけど、あの貴族、魔法が使えやすぜ?」

「シッ。聞こえるだろう。静かにしな」

「あいあい」

 

 そうしているうちに、セレンが四辻の向こうへと移動していく。男があとを追いかけようと通りへ出ようとすると、女は、男のベルトを掴んで引き寄せる。

 男は、グエッと潰れた蛙のような声を出すと、バックルの上を手のひらでさすりながら文句を言う。


「止めるなら、腕を引いてくだせぇよ、親分」

「黙れ、ガマガエル。――わたしに、いい考えがある。ちょいと、耳を貸せ」

「おっ。何か閃いたんすね? さすが、親分」


 男のヨイショを受け流しつつ、女は男に耳打ちする。話を聞いている男は、わかりやすく頷きつつ、しまりのないニヤケ面をする。

 そして、話を終えると、二人はその場から違う方向に動き出し、別々に行動を始めた。

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