表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トキメキ魔法は呪文いらず  作者: 若松ユウ
Ⅰ「二人の出逢い」
18/19

018「パートナー探し」【W002】

 そういえば、この街の地名を言い忘れてましたね。火山灰で出来た台地とその扇状地で形成されたこの土地は、灰かぶりの街という意味で「シンデレラタウン」といいます。

 セレン殿下の出逢いの地としては、お誂え向きの名ですな。


  *


 話は、さきほどより少しさかのぼる。まだ、クロムが馬車で迎えに行くより前の段階でのこと。


「そんな風に複雑に捉えるなよ。いたってシンプルな要求じゃないか。なんで駄目なのさ?」

「殿下。さすがに、それはワガママが過ぎるというものですぞ。せめて、この中からお選びください」


 タングステンが、机の上に山と積まれた手紙を指差すと、セレンは、あからさまに嫌悪感をあらわにして答える。 


「イヤだね。テルル以外とは、他の誰であっても踊りたくない」

「おやおや。殿下の強情にも、困ったものですな」


 書き物机に向かうセレンと、そのそばに立つタングステンが、互いに一歩も譲らずに主張を戦わせていると、ノックとともにクロムが部屋に入る。


「失礼します。招待状は書けましたか?」

「まだだよ、クロム。テルルに宛てて書こうとすると、タングステンが止めるんだ」

「当然でしょう。相手は庶民の娘ですぞ?」

「あら、良いじゃありませんか。パン作りで鍛えた腕や脚が隠れるデザインのドレスなら、きっと似合うと思いますよ。なかなかチャーミングなお顔をしてますもの」

「そうだよな。――ほら。クロムだって賛成してる」

「しかし、彼女はパン屋を支える必要も、弟の面倒をみる必要もあるでしょう」

「弟さんのお世話なら、わたしがします。お店だって、この前みたいに、一日くらいはどうにかなるでしょう」

「そうそう。そういうわけだから、僕はテルルを招待する。良いね?」

「やれやれ。そこまで頑なにこだわるのでしたら、もう私からは何も言いますまい」


 こうして、テルルはセレンに招待されたのである。


  *


 話を、ダンスのあとに進める。

 女神の水瓶から、キラキラと水しぶきが上がっている噴水。そのほとりにある瀟洒な意匠が施されたベンチで、ドレス姿のテルルと正装のセレンが歓談している。


「何度も動きが止まってしまって、申し訳なかったわ。あんな優雅なダンスなんて、一度も踊ったこと無いものだから」

「そんなことないさ。初めてにしては、よく踊れた方だよ。僕の方こそ、もっとスマートにリード出来たら良かったんだけど」

「とんでもない。あたしのギコチナイ動きを、あそこまでカバーできる人はいないわ」

「そうかな? ――あーあ、帰りたくないな。ずっとこのまま、テルルと一緒に居たいよ」

「あらあら、困った王子さまね」

「だってさ。毎日毎日、やれ魔術の勉強だ、謁見だ、署名だって、朝から晩まで公務が続くんだもの。誰だって嫌になるよ」

「大変ね。でも、いざというときに頼りにならないと、ちょっと……」


 語尾を濁しつつ、それとなく、かの一件で呪文を間違えたことを匂わせて責めると、雰囲気を察したセレンは、苦々しい表情をして約束する。


「そうだな。大事な人を護れないようでは、王子である前に、男子として自覚が足りないかもしれないな。……よし。今度テルルに会うまでに、もっと頼れる人間になるよ」

「フフッ。期待してるわ」


 先にセレンが立ち上がり、テルルに左手を差し出すと、テルルはその手を左手で握る。セレンは、その手を握り返して腕を引いてテルルを立たせると、その手を右手に持ち替え、屋敷の方へと歩き出す。テルルは、セレンに手を引かれるまま、並んで歩き出す。

 二人の顔がほのかに紅潮してるのは、夕陽が照らしているばかりではないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ