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トキメキ魔法は呪文いらず  作者: 若松ユウ
Ⅰ「二人の出逢い」
17/19

017「平行線の接点」【Cr001】

 おとぎ話なら、こうしてお姫さまは、王子さまと末永く幸せに暮らしましたとさ、とでもまとめるところでしょうね。

 でも、二人の物語は、まだまだ、これからが長いのです。

  

  *


「セレン坊ちゃまから、コチラをテルル様にお渡しするようにと言付かってまいりました。お読みくださいませ」

「あぁ、どうも」


 頭の上に疑問符を浮かべつつ、テルルはクロムから封筒を受け取り、封蝋が施された手紙を開け、鮮やかにレタリングされた文面に目を通す。アルゴンは、好奇心の赴くまま、その手紙を覗き込むようにしてテルルに尋ねる。 


「なになに? なんて書いてるの、お姉ちゃん」

「本日、下記の会場にて社交パーティーを行います。つきましては、テルル様にもご臨席たまわりたく存じます。詳しくは、車中でクロムより説明があります。――なんですか、これは?」

「書いてある通りですよ。招待状です」

「ショータイジョー?」

「ぜひ来てくださいっていう手紙のことよ。――せっかくですけど、お店を空けられませんし、第一、着て行くドレスだって……」

「来てくれって言ってるんだから、行こうよ。おいらも行きたい!」

「馬鹿ね、あんたは。こんな継ぎのあたった服で行ったら、笑われるだけよ」

「えー、もったいない!」


 断ろうとするテルルに、アルゴンは不満の声を上げる。すると、その様子を微笑ましく見ていたクロムは、メイド服のエプロンにあるポケットからステッキを取り出し、まずはテルル、次いでアルゴンの順で、二人に魔法をかける。


≪アーベントクライト≫

≪スモーキング≫


 クロムが杖先を二人へ向けて振ると、二人が着ている木綿で出来た質素な装いが姿を消し、代わってテルルにはイブニングドレスが、アルゴンにはタキシードが現れる。


「さぁ。これで準備は万端ですよ」

「わぁ、すごい! こんなカッコいい服、初めてだ」

「でも……」


 なおもテルルが渋っていると、二人の後ろから女が杖を突きつつ現れ、テルルに声を掛ける。


「話は聞こえてたわよ。お母さんやお店のことは気にしないで、二人で行っておいで」

「だけど……」

「いいから、お行きなさい。こんなチャンス、一生に一度あるかないかじゃないか。逃すのは惜しいよ」

「……はい。それじゃあ、行ってきます」

「やったー!」 

「では、こちらへどうぞ」

  

 クロムが先導すると、馬車の前で待機していた馭者が馬車のドアを開ける。三人は、馭者に軽く会釈をして乗り込む。

 馭者は、三人が乗ったことを確認すると、すぐにドアを閉め、ヒョイと軽快に馭者台に上がり、白馬に鞭を打って走らせる。

 みるみるうちに小さくなる馬車の影を、女はしばらく見つめていたが、やがて野次馬が散り散りにパン屋の周囲から離れるのと同時に、店の中へと戻っていった。その表情は、どこか充足感に満ち溢れていた。

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