010「三人マイナス一人」【Se005】
合縁奇縁という言葉がある。キューピッドのイタズラ心を的確に表した言葉だが、まさか、自分が経験するハメになるとは思わなかった。
気になっている人物と、こんなに早く再会する機会が巡ってくるなんて。
*
時は、しばしのあいだ、少し前にさかのぼる。
一話あけて前の話の続き。ホテルに宿泊している王子宛に、週末のダンスパーティーに当て込んだ荷物が届いたところから再生しよう。
ソファーに近寄ったセレンは、紙袋を手にするやいなや、袋口を逆さにして中身をカーペットにぶちまけた。
「……やっぱり」
「おや、坊ちゃま。いきなり、何をなさるのですか」
「そうですぞ、セレン殿下。一体、何事ですか」
そう言いながら、クロムとタングステンの二人は、カーペットの上に散らばったオレンジを回収する。その数は、全部で十個。そのうち一つには、一筋の小さな傷がついている。
セレンは、そんな二人の苦言を、馬耳東風と聞き流す。そして、まだ紙袋に何か入っていることに気付き、片手を入れて袋の底に張り付いている物を引き剥がす。
袋から手を出すと、そこには穴の開いた砂糖の小袋が握られている。セレンは、その小袋の中に、さらに何かが入っていると気付き、穴に指を入れてこじ開ける。中には、二つ折りのメモが入っていた。
「誰か知らないけど、手の込んだ真似をしてくれる」
メモを広げ、視線をサッと左右に走らせるやいなや、セレンは苛立たしげに呟きながら、メモを懐にしまって部屋の外へと駆けだした。
「殿下。お待ちなさい」
「おやおや。どこへ行かれるのですか、坊ちゃま」
タングステンとクロムは、拾ったオレンジをデスクに置き、急いでセレンを追いかける。
「待てと言われて、誰が待つものか。ちょっと用事を済ませてくるだけさ。大丈夫。ディナーまでには戻るから!」
そう言って、セレンは片手から指輪を外すと、タングステンに向かって投げ捨てる。タングステンは、その場で急停止して指輪をキャッチすると、再びクロムと共に追いかける。しかし、そのあいだにセレンは階段の手すりを跨いでスーッと滑り降り、その勢いのままロビーを行き来するベルボーイのあいだをすり抜け、ホテルの外へと飛び出した。
それから、しばし時間が経ち、セレンに遅れをとりながらも、ようやく二人もホテルの正面玄関へ辿り着いた。しかし、その頃には、玄関前の大通りでは、右を見ても左を見ても、セレンの後ろ姿を確認することは出来なくなっていた。
「お部屋に戻って、お帰りを待ちましょうか?」
「そんな悠長なことが出来ますか。今度は二人で探しますぞ」
「当てが無いのですね。フフッ。かしこまりました」
頭から湯気を出さんばかりに険しい表情をしながら、タングステンは大通りを足早に駆けて行く。そのあとを、さぞ面白そうにクロムが付いていく。陽は、すっかり高くなっている。




