表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トキメキ魔法は呪文いらず  作者: 若松ユウ
Ⅰ「二人の出逢い」
10/19

010「三人マイナス一人」【Se005】

 合縁奇縁という言葉がある。キューピッドのイタズラ心を的確に表した言葉だが、まさか、自分が経験するハメになるとは思わなかった。

 気になっている人物と、こんなに早く再会する機会が巡ってくるなんて。


  *


 時は、しばしのあいだ、少し前にさかのぼる。

 一話あけて前の話の続き。ホテルに宿泊している王子宛に、週末のダンスパーティーに当て込んだ荷物が届いたところから再生しよう。

 ソファーに近寄ったセレンは、紙袋を手にするやいなや、袋口を逆さにして中身をカーペットにぶちまけた。


「……やっぱり」

「おや、坊ちゃま。いきなり、何をなさるのですか」

「そうですぞ、セレン殿下。一体、何事ですか」

 

 そう言いながら、クロムとタングステンの二人は、カーペットの上に散らばったオレンジを回収する。その数は、全部で十個。そのうち一つには、一筋の小さな傷がついている。

 セレンは、そんな二人の苦言を、馬耳東風と聞き流す。そして、まだ紙袋に何か入っていることに気付き、片手を入れて袋の底に張り付いている物を引き剥がす。

 袋から手を出すと、そこには穴の開いた砂糖の小袋が握られている。セレンは、その小袋の中に、さらに何かが入っていると気付き、穴に指を入れてこじ開ける。中には、二つ折りのメモが入っていた。


「誰か知らないけど、手の込んだ真似をしてくれる」


 メモを広げ、視線をサッと左右に走らせるやいなや、セレンは苛立たしげに呟きながら、メモを懐にしまって部屋の外へと駆けだした。


「殿下。お待ちなさい」 

「おやおや。どこへ行かれるのですか、坊ちゃま」


 タングステンとクロムは、拾ったオレンジをデスクに置き、急いでセレンを追いかける。

 

「待てと言われて、誰が待つものか。ちょっと用事を済ませてくるだけさ。大丈夫。ディナーまでには戻るから!」


 そう言って、セレンは片手から指輪を外すと、タングステンに向かって投げ捨てる。タングステンは、その場で急停止して指輪をキャッチすると、再びクロムと共に追いかける。しかし、そのあいだにセレンは階段の手すりを跨いでスーッと滑り降り、その勢いのままロビーを行き来するベルボーイのあいだをすり抜け、ホテルの外へと飛び出した。 

 それから、しばし時間が経ち、セレンに遅れをとりながらも、ようやく二人もホテルの正面玄関へ辿り着いた。しかし、その頃には、玄関前の大通りでは、右を見ても左を見ても、セレンの後ろ姿を確認することは出来なくなっていた。

 

「お部屋に戻って、お帰りを待ちましょうか?」

「そんな悠長なことが出来ますか。今度は二人で探しますぞ」

「当てが無いのですね。フフッ。かしこまりました」 


 頭から湯気を出さんばかりに険しい表情をしながら、タングステンは大通りを足早に駆けて行く。そのあとを、さぞ面白そうにクロムが付いていく。陽は、すっかり高くなっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ