試してみる?
「うーん、難しいねぇ。おかえり、何が悪かったの?」
「玉祖命様! ……玉祖命さまぁー!!」
長らく見ることのできなかった悪意のない瞳にほっとし、思わず縋り付いて泣きまくった。玉祖命様は優しく抱きしめて頭を撫で続けてくれた。ごめんなさい、天之御中主神様。浮気じゃありません。ごめんなさい、玉祖命様。涙と鼻水でぐちょぐちょにして。
暫くして落ち着いた私は、玉祖命様から体を離し、玉祖命様に訴えた。
「どうなってるんです? あの世界、攻略対象者、いませんでしたよ」
「え? いるよ。……ほら、ここ」
そう言って、玉祖命様が水鏡を指し示す。そこにはあか抜けない男性……ってこれ、会長!?
「うん、そうだよ。他にもほら、こっち」
玉祖命様が差し出す先にいたのは、確かに言われれば面影があると言える攻略対象者達。
「ね? いたでしょう?」
呆然としている私に、にっこり笑っていう玉祖命様。
「じゃ、じゃあ、私何で、いなかったことになってるんですか? 家族がいなかったのはどうしてですか?」
「え、だって君に幼少時代はないし。生まれた時から存在しちゃってると、シンフォニー高校行けないかもしれないからね。サービスで入学から始めてみました」
ゲームの開始位置だしね、とさらっと言われる。
「そんなの、玉祖命様の力でちょちょいっと合格させてくれても。というか、入試まで眠ってた私の人格がゲーム開始直前で覚醒するとか……」
「それは駄目。私は、世界を作るところまでは好き勝手するけど、出来上がったものは極力手を出さないようにしているから」
「じゃあ、攻略対象者たちが皆モブに埋もれているのは……」
「この時期に生まれた子供に、こんな名前を付けろ、と最初に決めておいたからだねぇ。皆好き勝手生きた結果があぁなんだよ」
「わ、私、ゲームのイベントみたいな生活が楽しみたいんです。彼らのキャラは変わってもらうのは……」
「困る?」
「はい……」
「うーん、彼らをイベント通り動かさないとならないとすると。周りの評価も一緒でないと無理だからなぁ」
「む、無理……ですか?」
やっぱり我が儘過ぎだろうか。
「いや。無理ではないよ。けれどそうなると、そうだなぁ……。君と直接かかわる人間をいじることになるから、楽しくはないかもしれないよ?」
「な、何故ですか?」
「そりゃあ、不自然だから。……そうだな。世界を作る前に、一旦お試ししてみる?」
「お、お試し?」
お試しって何だろう。世界を作る前ってことは、出来た世界を覗き見するとかでもないんだよね?
「そう。今回は君に夢を見せる。そこは現実の世界ではないけれど、人間にとっては現実と変わらないはずだ。そこで暫く過ごして気に入ったなら、実際に作ろう」
成程。それは確かにお試しだ。
「は、はい。お願いします」
「うん、それじゃあお休み」
玉祖命様が優しく頭を撫でながら言う。私は夢の世界へと旅立った。