知らない生徒会
絶叫と共に、目を覚ます。そこにいたのは玉祖命だった。
「夢見た世界、気に入らなかった?」
ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返す私に、玉祖命が問う。
「あ、当たり前じゃないですか! 私は、『こいうた』の世界に……!」
興奮のあまり、ぼろぼろと涙がこぼれる。玉祖命はそんな私の涙を指で拭い取り、優しく言った。
「うん、だから希望通りに乙女ゲームに入れてあげたでしょう? 君が副会長を一番気に入ってたから、副会長を攻略する子の機体に入れたんだよ?」
「ち、違います。私は『こいうた』と同じキャラの住んでいる世界に行きたかっただけで。ゲームになりたかったわけでは……」
「そう? なら、教えて。そこはどんな世界?」
「そ、それは、攻略対象者である皆がいて、主人公であるヒロインがいて、シンフォニー高校に通っている世界です」
「うーん、分かった。それじゃあそんな世界を作るよ。今度こそ楽しんでおいで」
そうして、私は再度別の世界へと旅立った。
……ここは、どこ。
自由に動かせる体に感激しつつ、辺りを見回す。鏡を見つけたので、早速見ると、前の世界で鏡越しによく見たヒロインの姿。
やった! 私今度こそヒロインになったんだ!
んむ、平々凡々だった元の私とは違い、このあざといまでのポーズが憎らしいほどよく似合う。
前回、全く思うとおりに動けなかった反動で自由に動けるのが楽しくて仕方がない私は、色々なポーズを取って遊んだ。
テンション高くノリノリで遊んでいた私だったが、偶然目に入った時計の示す時間に慌てる。ちょ、今日入学式! 急がないと遅刻するー!!
自分の意志では一切動かせなかった前の世界。けれど、ゲームでは詳しく描写してくれなかった家と学校の行き帰りをしていてくれたことだけは助かった。おかげで、学校の場所が分からずに迷うことなく、どうにかこうにか学校に到着することができた。
本当は、入学が楽しみで早く来てしまったヒロインが校内をちょっと覗くことで起こるイベントがあったのだけれど、それやってると遅刻する。というか、もうこの時間では相手がいないと思う……。
幸先悪いスタートに多少落ち込みつつ、気を取り直して体育館へ。ここで、生徒会からの挨拶が聞けるんだよねー。
皆がだるそうにする中、ワクワクと校長の話を聞き流す。
「さて、次は我が校の生徒代表、生徒会から新入生へ歓迎の挨拶をいたします」
待ってました!
私は、舞台の裾から出てきた生徒会を……。
え?
生徒会長が生徒会長じゃない!
思わず頬をつねるも、ばっちり痛い。現実だ。
えぇー!!? なんでなんでなんでー!!
心の中で大絶叫の私。いやよく叫ばずにいられた、えらいぞ私。
パニックになりつつ必死に考えるも、全然わからない。こっそり後から真の生徒会が出てこないかと見回すも、壇上の生徒会長ははきはきと挨拶を終えた。
え、何で? 生徒会長は攻略対象で、副会長と人気を二分する形で学校で絶大なる人気を誇って、新入生たちも一目見ただけで黄色い歓声あげて……。
それが、実際には普通のモブ。いや、悪くはなかった。皆、新入生が楽しめるように挨拶も考えてくれてたし。生徒想いの生徒会ってのは嘘ではないと思う。
だけど……。え? それじゃあ、攻略対象者、どこ?
分からなかった。攻略対象者は、どこにいても目立つ。たとえ生徒会にいなくとも見つかると思っていたのに、見つからない。
教室に戻っても、見知らぬ人ばかり。同級生攻略キャラはおろか、前回モブとして存在していたクラスメイト達まで全然違うのだ。
訳も分からないまま、帰り道。
とぼとぼと帰り、郵便受けを開いていると、後ろから近所のおばさんに声をかけられた。
「あら、奏ちゃん、今かえ……あら? ごめんなさい、貴女、海野さんのご親戚の方?」
前の世界でよく話していた世話焼きのおばさんは、振り返った私の顔を見て、ちょっと不審そうな顔をした。
「え……? 私、奏ですけど」
「あら? そうだったかしら? え?」
「は、はい……」
慌てて否定するも、今までの奏とは異なるのも事実。私は適当に挨拶をして家に入った。




