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神に願いを  作者: 北西みなみ
私の望み
2/15

私の生前の人生は

乙女ゲームの世界に転生してみたい。それが私のささやかな夢だった。


最近『物書きになれる』という小説サイトで流行りの物語のジャンル。何かで死んで、異世界に転生して楽しむ物語。転生先はファンタジーな世界だったり物語やゲームの中の世界だったり。大抵、転生前の知識が役に立って頑張る感じ。


その中に、乙女ゲームの世界に転生した物語もあった。これも人気が出過ぎて、転生先がヒロインだったり悪役令嬢だったり目立たないモブだったり、色々あったけど、やっぱり私が好きなのはヒロイン自身に転生するものだ。


ヒロインとしていじめられるのは嫌だけど、悪役令嬢として未来への恐怖なんて感じていきていきたくないし、モブが出張って何が起こるか分からない事態になるのだって困る。


やっぱり、道筋が決められているヒロインが安定株だと思う。


けれど、そもそも転生するのがとっても難しい。何か、死ぬ運命じゃないのに間違えたとか、死ぬ予定の他人救ったとか、そういうのが転生のセオリーらしいが、ちょっと無理。


私の運動神経じゃあ、車に轢かれそうな子供なんて助けられない。せいぜい、子供が轢かれた後に自分も飛び出して轢かれるくらいのタイミングが精一杯。何分後に誰が轢かれるというのが分かっているのならまだしも、一緒に轢かれるような素早い行動すら難しい状態。


他に何か案を、とも思ったけど、死ぬ予定の人間なんて、そうそう救えるような機会があるとは思えない。


でも、私は考えた。一生懸命頭を捻った。そして、一つの結論を出したのだった。


神様が異世界に転生させてくれるのなら、何も死ぬ予定の人間を救って、ご褒美もらえないかなーなんて考えは消極的すぎる。向こうから選んでもらえるような待ちの姿勢ではなく、直接立候補すべきではないか、と。


まず、禁欲だ。煩悩全てを異世界転生に傾け、他はなるべく存在しないようにしなければならない。いつでも願いは一つにしておかないと、うっかり別のお願いを叶えられて、はいおしまいと言われたら泣くに泣けない。


それから、神話をひたすら調べた。八百万に頼んでいては神様にはぼんやりとしか伝わりはしない。ここは一点集中で、ただひとりに祈るべきだと考え、確実に異世界へと運ぶ力のありそうな神に狙いを定めた。その名も天之御中主神様!


最高神でありながら、知名度はほかのメジャー神に比べて低め。強くて控え目なんてこれはもう、祈る価値ありに決まってる!


というわけで、早速水天宮に。月次祭も献茶祭も行きつつ、毎日お祈り。お祈りだけでは足りないので、お供えもする。


しかし、日参しているうちに少し不安が頭を擡げてきた。神社に奉納だと、想いはダイレクトに伝わらない気がする。というか、あれだけの人の中で祈っていても、紛れて気付かれないんじゃないだろうか。それは困る。


私は、一人静かに祈れるよう、自分でお宮を作れないかと考えた。作り方を見てみたところ、お宮を立てて、分霊を行えばいいらしい。


分霊とはその名の通り、既にあるお宮から神の御力を分けていただくこと。つまり水天宮から分けてもらえばいい。


問題は個人にほいほい分けてもらえるようなものではないということだが、こればっかりは長期戦で私の熱い想いを伝えるしかない。ひとまずお迎えするための外見を整えるべく、必死に調べた。


お宮を作ってくれる企業はある。けれど、そんな他人の作ったもので、天之御中主神が喜んでくださるだろうか? 神社の隅々にまで私の想いをぶつけるのに、他人の手を借りてそれが成せるだろうか? 否。そんな楽をして、私の想いが伝わるわけがない。自らの手で作ってこそ、至上の作品となるというものだ!


私の進路が決まった瞬間だった。



さて、宮大工になるには、すぐに弟子入りすべきかとも考えたが、少ないながら専門校もあるらしい。女にとって狭すぎる門をこじ開けるには、それなり以上の力が必要と考えた私は、まず学問と資格を修めることにした。


勿論、その間もお祈りは疎かにはしない。私にとっては仮の宮となる水天宮に足繁く通い、宮大工さんにも話を聞きに行った。


宮大工たちは最初、女で子供な私を小ばかにしていたが、挫けず追いかけてくる私の執念に、段々と質問にも答えてくれるようになり、次第に、大学いって資格も取れたら弟子にしてやるぞー、と冷やかしてくれるようにまでなった。


私は頑張った。


望む大学に入るため勉強しつつ、少しでも技術も学ぶため木工もやる。繊細な彫刻とか透かし彫りなんかは無理でも、簡単な家具ぐらいは作ったりした。


いつか作るお宮をどんな形にするか、理想のお宮の作成のため、ひたすら色んな神社を回った。お小遣いが心もとなくて、一時間以上歩き、帰りがあることを帰りになって気付いてひーひー帰ったこともある。


なるべく多くの神社を見たくて、成績上げるからと、お小遣いアップも交渉した。勉強に時間を取られて神社巡りができなくなっては本末転倒なので、授業に集中し、分からない部分は先生に聞いて分からないことを家に持ち帰らなかった。


それから、おばあちゃんちの余らせている土地に、お宮を立てさせてほしい、とお願いした。孫がいきなり訪ねてきたと思ったら、三つ指ついて土地がほしいと言われたおばあちゃんはとても驚いていたけれど結局は、生活に不便な田舎の土地でいいならいいよ、あげようね、と言ってくれた。口約束ではあるが、土地は確保した。


勿論、水天宮への日参も欠かさない。毎日行っては、いずれ分霊をとお願いする毎日。子供が一体何を、と本気にされなかったのが最初。その内、私の本気が伝わりうす気味悪がられるように。そして、宮司さんがお相手してくれるところまできた。


宮司さんは、思ったより気さくだけれど、やはり分霊に関しては手強い。のらりくらりとかわされてはいるけれど、無理は承知の上。お宮が出来るまで、時間はまだある。それまでに口説けばいいのよ、と、地道に五円玉を握りしめて向かった。


そうした毎日を過ごしていると、あっという間に中学卒業。進路では一瞬、弟子にしてと頼み込めばいけるんじゃないか、という気持ちもよぎったが、大学へ行き、私の本気を見せることが一番の近道だとぐっと我慢し、進学。


無事、大学へ行って、知識と資格も手に入れた。


この頃になると、宮大工たちも応援してくれ、卒業後は来い、と本気で言ってくれる人も出てきた。その人の作品を見て、迷わずお願いする。宮司さんも、お宮の出来栄えによって考えましょう、と言ってくれた。口約束にすらならないレベルの軽口だったが、希望は見えた!


こうして無事に宮大工になった私は、紆余曲折を経て、念願のお宮を建立することに成功する。


そして、四十年近く私の熱意を浴びせられ、沢山の寄進、奉納も受けた宮司が遂に陥落。毎月一定の寄進を条件に、分霊が実現。遂に、一人でじっくりお祈りする環境を手に入れたのだった。

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