高天原にて
彼女が消えた後。一人の神が姿を現した。
「振られちゃって。残念だったね」
「うるさい」
現れた神に視線も向けずに吐き捨てる。けれど不機嫌を全面に出したにも関わらず、怯みもせず話しかけてきた。
「彼女も少し迷ってたみたいだったのに、いやぁ勿体ないね」
いかにも面白そうに言われ、いらっとする。
「邪魔だ、去れ」
しっしと追い払う仕草にもめげず、言い募ってくる。
「ちょっとそれ酷くない? せっかく名前貸してあげたのに」
「……」
「大体、彼女は心に決めた神がいるんだから、別の神になんてなびかないなんて、仕方がないじゃないか」
「うるさい黙れ玉祖命」
どうあっても帰りそうにない相手に、諦めて体を向けると、やっと相手にされると思ったのか、玉祖命はとても面白そうに笑う。
「かのお方から言われたなら、彼女だって承諾したかもしれないのにね」
「……」
「それとも何? それを裏切ってまで『自分』が選ばれたかった? 彼女に、天之御中主神なんてもう忘れるって言われたかった?」
「…………」
「それとも、自分の正体に気付いてほしかった? それは無理だよ。神のまやかしは人間の身には見破れない」
「……分かっている」
うるさい奴だ。
「それでも彼女ならって思った? 奇跡を起こすって?」
私が分かっていると言っているのに、聞こえなかったかのように続けてくる玉祖命にますますイラついた。
「そんなこと期待していない」
「まぁ、彼女は次の生も天之御中主神を信仰するって言ってたんだから、また会ってやったら? あの意志の強さなら、記憶がないくらいじゃ信仰辞めないでしょ」
「今回は気まぐれだ。次は知らん」
ふん、と顔を背ける。
「そう? なら次は私が行こうかな? 玉祖命様大好きって言われちゃったし……って、おぉ怖い怖い。冗談に決まってるでしょ? 彼女は君のものなんだから、盗ろうとする神なんていないよ」
「…………私のものでもない」
私の限りなく低い声と対照的な、口笛を吹き出しそうなほど楽しげな声が聞こえる。
「あ、そうだったね。断られたんだった。でもいいじゃん。他の神を選んだ人間を自分のものにしようとする神はいないんだし、気長に口説きなよ」
それじゃあね、と言って去っていく玉祖命を見ながら、天之御中主神は一つ息を吐いた。
「気長に待ったりなど……するものか、馬鹿馬鹿しい」
呟いた視界の先。生まれたての少女を捉え、至高の神は高天原から姿を消した。
友人のリクエストは、乙女ゲームの世界に異世界転生する女の子。相変わらずですね、友人よ。
ですが、私、頑張ったよ。主人公ほどではないけれど、君の望み通りの作品を作り上げた! さぁ、これで文句ないだろう?(ドヤ顔)